第652回 UEFAカップ決勝トーナメントへの道(2) 初出場のナンシー、決勝トーナメントへ
■変則的な仕組みで行われるグループリーグ
9月に行われたUEFAカップの1回戦で、フランスから出場した5チームのうちランス、パリサンジェルマン、ナンシー、オセールの4チームがグループリーグに進出した。グループリーグには40チームが進出し、5チームずつ8つのグループに分けられ、グループリーグを戦う。このUEFAカップの特徴として、グループリーグはホームアンドアウエー方式ではなく、いずれかのホーム1試合だけしか行わないという点が上げられる。すなわち、あるチームと対戦する際、ホームもしくはアウエーでしか対戦せず、微妙な有利不利が生じるが、今大会のフランス勢は例年以上にその影響が現れることとなった。
5チーム中3チームが決勝トーナメントに進出できることから、勝ち点6を取れば安全圏である。つまりホームゲーム2試合を勝利すれば年を越えることができる。劣勢が予想される相手とアウエーで戦って敗れても、優位にあるチームとホームで戦って勝利すればおつりが来る計算になっている。また、グループリーグは4試合しか戦わないことから、1試合の重みは他の大会とは比較にならない。
■初戦をホームで確実に勝利したナンシー
そのホームでの戦いをうまく生かしたのが、グループEのナンシーである。このグループEにはイングランドのブラックバーンが最有力で、オランダのフェイエノールト、スイスのバーゼルと日本人選手が過去または現在所属している日本の皆様には親しみのあるチーム、そしてポーランドのビスワ・クラクフがそろっている。ナンシーにとっては最も力のあるブラックバーン戦は最終戦でしかもアウエーの戦いである。すなわちそれまでの3試合で勝ち点を積み重ねておきたいところである。ナンシーは第1節は試合がなく、第2節のビスワ・クラクフ戦が初戦となる。ビスワ・クラクフは第1節では地元でブラックバーンに敗れており、実力的にはナンシーが一枚上手である。ナンシーは10分にキンが先制、32分に追いつかれたものの、パスカル・ベランゲが61分に勝ち越し点を上げて勝ち点3を確保した。
■アウエーのバーゼル戦の引き分けの裏でパリのサポーター死傷事件
第3節はアウエーでバーゼルとの戦い、ここまで2戦して勝ち点わずか1のバーゼルにとっては正念場となった。32分にナンシーのキンがゴールネットを揺らすと得点の取り合いとなった33分にバーゼルが追いつき、34分にベランゲのゴールで勝ち越す。このままいけば2勝目をあげて決勝トーナメントに近づくところであったが、57分に追いつかれる。そして後半ロスタイムにはナンシーはPKのチャンスを得るがこれを失敗し、試合はドローで終わり、ナンシーは勝ち点1を上積みしただけで、決勝トーナメント行きを決めることはできなかった。この日、パリでは本連載第646回から第648回で取り上げたようにサポーターの死傷事件が起こり、ナンシーのその後にも影響を与えた。
■荒れるフェイエノールトサポーター、完勝も後味悪く
第4節は11月30日に行われ、この節だけが前節の翌週に行われた。ナンシーはホームで戦ったが、物々しい雰囲気の中で試合が行われた。物々しい警備の中に乗り込んできたのはフェイエノールトである。数々の武勇伝を持つサポーター集団を抱え、しかもネオナチを背景を持つ集団も少なくない。試合はナンシーが22分にセバスチャン・ピュイグルニエの先制点、42分にアンドレ・バイアのオウンゴールで前半をリードする。後半に入って、61分にはフェイエノールトの選手が2枚目のイエローカードで退場する。ナンシーは65分にモンセフ・ゼルカがPKを成功させて3－0と安全圏に入る。
しかしマルセル・ピコ競技場は安全圏に入ったのではなく、危険な状況にあった。これまで2試合とも引き分けのフェイエノールトのサポーターにとって28年ぶりに欧州カップに出場するナンシー相手に負けるとは我慢のならないことであった。試合終盤にフェイエノールトのサポーターは暴動を起こし、増強された警官はやむなく催眠ガスを発砲する。試合は80分を迎えたところで長々と中断してしまう。再開後すぐにフェイエノールトはPKを得るがそれを失敗するという具合で、ナンシーは完勝、2勝目を上げ、最終戦で対戦するブラックバーンと並んで勝ち点7となり、決勝トーナメント進出を決めたが、パリでの事件の翌週に競技場内での暴動が起こったことは大きな汚点となった。
最終戦はブラックバーンの本拠地に乗り込んだナンシーが健闘し、両チーム無得点が続き、このままノーゴールならば総得点で勝るナンシーが首位突破というところであったが、ワールドカップでも活躍した豪州代表のルーカス・ニールが93分に決勝点、ナンシーは首位を譲ったが、堂々の決勝トーナメント進出である。（続く）
