第1077回 ヨーロッパリーグ2回戦(1) マルセイユファンが熱望するベンフィカ戦

■1回戦と2回戦の組み合わせをセットで決定したヨーロッパリーグ

 前回の本連載ではチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦の第2戦でリヨンがレアル・マドリッドと引き分け、ベスト8に進出したことを紹介した。これでフランス勢はヨーロッパリーグのマルセイユ、リールに続き、3チーム連続して第一関門を突破している。そのリヨンがレアル・マドリッドを退けた翌日、ヨーロッパリーグの決勝トーナメント2回戦(ベスト8決定戦)の2試合が行われた。
 マルセイユとリールの1回戦突破については前々回の本連載で紹介したとおりであるが、FCコペンハーゲン(デンマーク)相手に第1戦をアウエーで勝利したマルセイユはキックオフ前から楽勝ムードであり、ファンはマルセイユの勝利だけではなくその日の午後に代表に選出されたハテム・ベンアルファとブノワ・シェイルーに注目していたが、マルセイユのファンはもう1つ注目していたことがあった。それが2回戦の相手である。ヨーロッパリーグは1回戦が終了してすぐに2回戦が行われるため、2回戦までの組み合わせを1回戦と同時に12月18日に決定し、準々決勝以降の組み合わせを3月19日に決定する。

■欧州チャンピオンを目指した1989-90のマルセイユ

 マルセイユが1回戦を勝ち抜いた場合の2回戦の相手はヘルタ・ベルリン(ドイツ)とベンフィカ(ポルトガル)の勝者である。マルセイユのファンは2回戦はぜひともベンフィカと戦いと願っていたのである。その理由は20年前にさかのぼる。
 1988-89シーズンのフランスリーグを制覇したマルセイユは1989-90シーズンのチャンピオンズリーグに出場する。マルセイユは優勝候補と目され、1回戦でブロンビー(デンマーク)、2回戦でAEKアテネ(ギリシャ)、準々決勝でCSKAソフィア(ブルガリア)を難なく下し、準決勝に進出する。準決勝の組み合わせはマルセイユ-ベンフィカ戦とACミラン(イタリア)-バイエルン・ミュンヘン(西ドイツ)である。ベルナール・タピの率いるマルセイユは、シルビオ・ベルルスコーニのACミランとの対抗心を燃やし、オーストリアのウィーンで開催される決勝戦での対戦を心待ちにしていた。28回目のリーグ優勝を果たしたベンフィカを率いるのは後にイングランド代表監督になったスベン・ゴラン・エリクソンである。

■第1戦は逆転勝ち、12万観衆の第2戦も目論見どおりの展開

 第1戦は4月4日にマルセイユで行われ、アウエーのベンフィカが先制点を奪うが、すかさずフランク・ソーゼーが同点ゴール、前半終了間際にジャン・ピエール・パパンが勝ち越し点を上げ、ホームで先勝する。
 そして4月18日に第2戦が当時西欧で最大のサッカー場であったリスボンのルス競技場で行われた。この時期は復活祭の休暇であり、フランスに居住するポルトガルからの移民も大量に帰省する。リスボンのポルテラ空港にはパリからの多数の帰省客、そしてマルセイユからのサポーターが多数のチャーター機から降機する。試合は当時西欧では12万人と言う最大の収容能力を誇るルス競技場で行われた。試合前にはグラウンドに1960年代のベンフィカの黄金時代を支えたエウゼビオが姿を現す。第1戦を勝利しているマルセイユはアウエーの第2戦で引き分け以上であれば決勝進出である。マルセイユはスター軍団であったが、ベンフィカも後に名古屋グランパスで活躍するブラジル代表のバウド、スウェーデン代表のヨナス・テルンとマット・マグヌソンなどの豪華メンバーの集団であった。試合はマルセイユの目論見どおり、0-0で時計の針が回っていく。

■途中出場のアンゴラ代表のバータがハンドでゴールを決める

 この試合、スウェーデン人のエリクソン監督は2人のスウェーデン人選手を起用したが、前年にスウェーデンの最優秀選手に選ばれたテルンを下げ、アンゴラ代表のバータを起用する。そして時計の針は80分を過ぎた。82分クロスボールはバータの頭上を通過するに見えたが、このハイボールをバータは手を上げてゴールにスパイクする。12万観衆の誰しもが証人となったが、裁判官である3人のベルギー人審判団はこのハンドを見逃す。マルセイユの抗議も認められず、この試合を0-1と落としたマルセイユはアウエーゴール2倍ルールで決勝の道を閉ざされ、ACミランとの対戦は実現しなかったのである。(続く)

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