第62回 2001-02フランス・サッカー・フィナーレ(7) シラク大統領退席、ロリアン初タイトル
■「ラ・マルセイエーズ」演奏後にシラク大統領退席
「フリアニの悲劇」からちょうど10年後の2002年5月5日、ジャック・シラク大統領はジャン・マリー・ルペンを大統領選挙の決選投票で大差をつけて破り、再選を果たす。再選を果たしたシラク大統領が最初に多くの国民の前に姿を現すのがこのフランスカップの決勝。4年前に母国にワールドカップを授与したスタッド・ド・フランスで8万人の万雷の拍手を受けるはずであった。ところが試合開始を前に両チームの選手が整列した時に事件は起こった。
フランス国歌である「ラ・マルセイエーズ」を演奏している時に主にバスティアのサポーターの集まったエリアから国歌を口笛や奇声によるブーイングが起こったのである。コルス独立という民族主義によるブーイングにかき消されそうになった「ラ・マルセイエーズ」の演奏の後、両チームのイレブンならびに審判団を激励するためにピッチに降りるはずのシラク大統領は無言のまま退席する。同席していた新閣僚のジャン・ピエール・ラファラン首相、ニコラ・サルコジ内相、ジャン・フランソワ・ラムール・スポーツ相も大統領と行動をともにする。国家の元首でありシャルル・ド・ゴールの流れを受け継ぐシラク大統領ならずとも自国の国歌に対する侮辱には断固として抗議するのである。
■シラク大統領の威厳あふれるスピーチ
大統領不在のカップファイナルは考えられない。慌てふためくフランス協会幹部。共和国大統領を待ち受けていた選手・審判団は拍子抜けし、ロッカールームに引き返す。シラク大統領はフランス協会のクロード・シモーネ会長に「協会として国家に対する謝罪」を申し入れる。シモーネ会長は大統領に謝罪するとともに、マイクロホンで観衆に「国歌を尊重して欲しい。このことを了解してもらえない限り、選手はピッチに姿を現さない」と訴える。
一方、激戦を勝ち抜いたばかりのシラク大統領の動きはすばやい。その数分後、試合中継を行うTF1のカメラに向かって熱く語りかける。「無責任な何者かがラ・マルセイエーズを侮辱した。許しがたく、受け入れがたいことである。私はサッカー協会会長にキックオフを遅らせるとともに、侮辱された国家に対して直ちに公の前で謝罪することを命じた。この国歌に対する侮辱が共和国の価値および共和国を代表する存在に与える打撃を私は受け入れるわけにはいかない。」実に威厳あふれるスピーチであった。
協会幹部の謝罪により国家元首が貴賓席に戻り、選手もピッチに戻る。そしてキックオフを前に両チーム主将がメンバーを大統領に紹介する。口笛や奇声が主にバスティアの応援席から発生したことから選手紹介の際にバスティアのフランソワ・ニコライ会長はシラク大統領に謝罪する。
■20分遅れでキックオフ、ロリアン初優勝
そして試合は20分遅れでキックオフされた。自らのサポーターの行為により試合開始前に大統領を激怒させたバスティアは元気がなく、コルスの国旗とも言えるテスタ・モーラ(頭にバンダナを巻いたムーア人の黒い横顔)もスタッド・ド・フランスで舞う回数も少ない。一方、3週間前の4月20日にはリーグカップで決勝に進出しながらボルドーに0-3と完敗、第60回で紹介したとおり1週間前の5月4日にはリーグ最終戦でメッスと無念の引き分けで2部降格と無念な遠征が続いていたロリアンは「鱈」というニックネームであるが、まさにスタッド・ド・フランスで水を得た魚のように動き回る。42分には主将のジャン・クロード・ダルシャビユが待望の先制点をあげる。
42分には主将のジャン・クロード・ダルシュビユが待望の先制点をあげる。ダルシュビユは今季リーグ戦では19点をあげ、22得点のジブリル・シセ(オセール)とパウレタ(ボルドー)に次ぐリーグ3位という見事な成績、来年はUEFAカップではなく1部リーグでの試合を希望し、シーズン後のボルドーへの移籍が噂されている。
■珍記録を続出させたロリアンの優勝
2部降格のチームがフランスカップを獲得したのは昨年のストラスブール、1997年のニース、1962年のサンテエチエンヌと4回目のことであるが、今回優勝監督となったイボン・プーリカンは昨年ストラスブールの監督を務めており、2年連続でリーグ降格・カップ優勝という非常に珍しい記録を残すことになった。また、カップを制覇したロリアンはUEFAカップも初出場となるが、来年は2部リーグに所属しながらUEFAカップをボルドー、パリサンジェルマンとともに戦うことになる。3年連続して2部チームがUEFAカップに出場(1999-2000のリーグカップ優勝のグーニョン、2000-01のフランスカップ優勝のストラスブール)することになり、これもまた珍しいことであろう。
そしていよいよシーズンオフ、今年はバカンスではなく韓国と日本でのワールドカップが待っているのである。(この項、終わり)