第514回 1部勢がフランスカップに参戦(3) 半世紀以上優勝のないノール・パ・ド・カレー勢
■好調なプロ3チームが優勝を目指す
7チームがベスト32決定戦に挑んだノール・パ・ド・カレー勢、アマチュアの4チームはすべて強豪のプロチームと対戦し、カレー以外は敗退したが、サッカーの盛んなこの地方の地元ファンにすばらしい初夢を与えた。その一方、プロチームとなると目標はフランスカップの制覇であり、そしてその次に続く欧州での戦いとなる。
プロチームとしてフランスカップに挑んでいるのは1部からはランスとリール、2部からはバランシエンヌである。ランスとリールについては最近の本連載でもご紹介しているとおり、欧州での活躍も目覚しく、両チームともUEFAカップの決勝トーナメントに進出している。またバランシエンヌは今季ナショナルリーグから2部リーグに復帰したばかりであるが、リーグ戦では首位争いに加わり、久々の1部復帰も夢ではない。
■最後の優勝は1955年のリール
このようなチームが揃い、カレーが6年前に決勝に進出をしているが、不思議とこの地域はフランスカップとは縁が薄いのである。カレーの以前にフランスカップの決勝に進出したのは1975年のランスまでさかのぼらなくてはならない。そしてその時の決勝の相手はローヌ・アルプ地方のサンテエチエンヌ、ライバルの地方のチームに敗れ、準優勝に終わっている。ノール・パ・ド・カレー勢が最後に優勝したのは半世紀以上前の1955年のリールのことである。1955年のリールは5度目の優勝であるが、1946年に初優勝し、1948年まで3連覇、さらに1953年にも優勝している。ちなみにフランスカップの3連覇はフランスカップの創成期の1921年から1923年にかけてレッドスターが達成した以外にリールのみが成し遂げた偉業である。レッドスターの3連覇時にはフランスリーグがまだ発足していなかったことを考えればその偉大さがわかるというものである。
■アマチュア4チーム同様くじ運に恵まれず1部勢とアウエーで対戦
この地方から長い間フランスカップの優勝チームが生まれていないのは意外であるが、今季のプロ3チームには勢いもあり、大いに期待できる。ところが、アマチュアチーム同様、組み合わせ抽選に恵まれなかった。リールはサンテエチエンヌ、ランスはルマン、そしてバランシエンヌはナントといずれも1部のチームと対戦することになった。
しかも3チームともアウエーの戦いとなる。ちなみに1部勢同士の戦いはリール、ランスの試合以外にはストラスブール-ナンシー戦だけである。
■ロスタイムに決勝点を奪われたバランシエンヌ
バランシエンヌの対戦相手のナントは下部組織が充実しており、フランスの多くのチームに人材を供給している。バランシエンヌの左サイドバックのギヨーム・リペールもその一人である。ナント時代、17歳以下のフランスチャンピオンに輝いたリペールであるが、ナントのトップチームからは声がかからず、ベルギー国境の町でプロとしてのキャリアを始めた。リペールにとっては成長した姿を自らの第二の故郷であるナントのチームメートに見せるチャンスである。また、バランシエンヌの監督のアントワン・コンブアレはパリサンジェルマン時代の1993年に選手としてフランスカップ決勝でナントを下して優勝している。今季リーグ戦で中位に低迷しているナントと、2部で3位につけているバランシエンヌ。バランシエンヌの名が世界中に響き渡ったのは1993年に起こったマルセイユ戦での八百長事件である。当時リーグ戦で首位のマルセイユはリーグ終盤で最下位のバランシエンヌと対戦したが、欧州チャンピオンズリーグでのタイトルが欲しかったマルセイユはバランシエンヌ相手に八百長を持ちかける。この事件はシーズン終了後発覚したが、バランシエンヌで事件に加わったと見られる選手がシーズン後ナントに移籍している。マルセイユの八百長事件もすっかり風化したが、注目の一戦には変わりない。
この試合、ナントは開始早々の2分にマウロ・チェットが先制点をあげる。対するバランシエンヌは21分にトーマス・ドセビのゴールで同点に追いつく。試合はこのまま両チーム無得点が続き、延長戦かと思われたが、ロスタイムの91分にナントのオーレリアン・カプーがゴールをあげる。プロとなって2シーズン目のカプーはプロとして初のゴールを決め、ナントを勝利に導き、バランシエンヌの夢は止まったのである。(続く)