第803回 新春告げるフランスカップ(4) CFA勢で活躍したブズール、クビリー、ルーアン

■ベスト32決定戦の常連カレーは今年は姿を見せず

 前回の本連載では今年のフランスカップのベスト32決定戦での唯一のジャイアントキリングというべきパリFCがトゥールーズを破った試合を紹介したが、順当な結果に終わった試合にもさまざまなドラマが存在した。
 今年も32決定戦には6部リーグに相当するCFA2部のチームまで出場している。下位のリーグに所属するクラブの中にはフランスカップのスペシャリストとして例年上位に進出するチームがある。4部に相当するCFA以下のクラブではカレーが有名であり、過去10年間のうち5回越年し、これは最多記録であるが、今年は12月半ばに行われた8回戦で姿を消している。CFA以下のチームで過去10年間にカレーについで4回越年したチームが5チームあるが、そのうち3チームが今年はベスト32決定戦に進出している。

■1部最下位のメッスに挑戦したブズール

 この中で日本の皆様ならばご存知なのがブズールであろう。オート・ソーヌ県の県庁所在地であり、アジア映画祭を開催し、「パプリカ」や「銀色の髪のアギト」がこの映画祭で世界中に知られることになったことで、日本の皆様にこの人口2万人の町は知られることになったはずである。このブズールは現在CFAで4位、そして相手は1部のメッスである。メッスは前半戦を終了した時点でわずかに1勝しかしておらず、リーグ戦での唯一の勝利は9月22日のカーン戦である。19試合でわずか勝ち点7にとどまり、19位のソショーとですら勝ち点の差は9もあり、残留圏内の17位のリールとの勝ち点差は14と絶望的な状態にある。ブズールの勝機は十分にあると人口の6分の1にあたる3200人の観衆が集まった。
 しかし、メッスは一念奮起し、攻撃陣が次々とゴールを上げる。ここまでリーグ戦で1得点のババカール・ギエ、無得点のセバスチャン・ルヌアールがそれぞれハットトリックを記録する。ブズールは試合終了直前に得点を挙げて完封負けを脱するのが精一杯で、1-6と大敗する。メッスは9月26日のリーグカップのボルドー戦以来久しぶりの公式戦での勝利を挙げたのである。

■隣接するクビリーとルーアン

 そしてCFAのクビリーもまた過去10年間で4回目のベスト32決定戦である。今年のクビリーには2つの大きなモチベーションがある。まず、このクビリーという町については日本の皆様もよくご存知ではないであろう。聖堂で有名なルーアンに隣接する人口2万2000人の都市である。ルーアンのクラブはかつては2部にも所属したことがあったが、現在はクビリー同様CFAにとどまっている。そして今年のベスト32決定戦にはルーアンも勝ち残っており、ともに1部勢に挑戦する。クビリーにとってルーアンよりもよい成績を残したいのが最初のモチベーションである。ルーアンの本拠地のロベール・ディオション競技場はクビリーにある。クビリーもルーアンもホームゲームとなったため、クビリーは2500人しか収容できない本来の本拠地ロザイ競技場もルーアンの本拠地のロベール・ディオション競技場も使用せずに、ルアーブルのジュール・デシャゾー競技場を使うことになった。すなわち、ルーアンの住民がクビリーに、クビリーの住民はルアーブルへと大移動が行われたのである。

■1968年の準決勝の再戦となるが雪辱ならず

 第2のモチベーションはクビリーの相手である。1部の強豪ボルドーをルアーブルで迎え撃つことになるが、実は40年前の準決勝でクビリーはボルドーと対戦しているのである。アマチュアの雄クビリーはこの大会でリヨン、ダンケルクなどのプロチームを破り、準決勝のボルドー戦も延長までもつれ込み1-2と惜敗する。ノルマンディー地方では今なお語り継がれる1968年の準決勝の再戦となり、クビリーの町は大騒ぎとなったのである。一般のフランス人にとって1968年は学生運動で揺れた年として記憶されるが、ノルマンディーの人々にとってはクビリーの快進撃の年として記憶されているのである。
 ルアーブルに大挙したファンの前で両チーム譲らず前半は無得点、そして後半になって先制したのはボルドー、フランス代表として活躍したジョアン・ミクーが55分にゴールネットを揺らす。これに対し、クビリーも76分に追いついた。しかし、78分にミクーに勝ち越し点を奪われた後、さらに失点し、1-3と敗れてしまった。またストラスブールに挑戦したルーアンもPK戦で敗れてしまったが、両チームの快進撃はノルマンディーサッカーの希望となったのである。(この項、終わり)

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