第1390回 2012年フランスカップ決勝(2) 延長戦での戦績が対照的な両チーム
昨年3月11日の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■オランド-サルコジの戦いと似た構図のクビリー-リヨン戦
大統領選挙の第1回投票と決選投票の中間の週末に行われる今年のフランスカップ決勝、前回の本連載で紹介したとおり、第1回投票で首位の新人の社会党のフランソワ・オランド候補は地元のクビリー支持を打ち出し、第1回投票で2位に甘んじた現職大統領のニコラ・サルコジ候補は中立という態度をとっている。大統領選挙ではチャレンジャーのオランド候補が勢いでは勝り、フランスカップの決勝も3部に相当するナショナルリーグから勝ち上がってきたクビリーにフランス国民の注目が集まっている。
対するリヨンは前回の本連載で紹介したとおり、2008年にはリーグ7連覇を達成し、フランスカップと合わせて二冠を獲得したが、その後タイトルから見放されている。これは5年前には圧倒的な人気で大統領に就任したものの、その後人気が低迷しているサルコジ大統領と、この3年間タイトルから遠ざかっているリヨンを重ね合わせてみるフランス国民は少なくない。
■直近の延長戦で連敗しているリヨン
このようにオランド-サルコジの決選投票と、クビリー-リヨンの決勝戦の対立の構図の類似性が今回のフランスカップの決勝戦を盛り上げているが、クビリーとリヨンには対照的な点がある。
それはカップ戦特有の延長戦での両チームの今季の戦績である。リヨンは2週間前の4月14日に行われたリーグカップ決勝では延長戦の末、マルセイユに0-1と敗れている。また、リヨンはチャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦のアポエル・ニコシア(キプロス)戦でも第1戦、第2戦とも同じスコアになり、3月7日に行われた第2戦は延長戦にもつれ込み、結局PK戦で敗れ去っている。リヨンは今季延長戦を4試合戦ったが、フランスカップのベスト8決定戦のボルドー戦(2月8日)とリーグカップの準決勝のロリアン戦(1月31日)には勝利しており、2勝2敗という成績であるが、直近の2試合は涙を飲んでいる。
■フランスカップ9試合中6試合が延長戦だったクビリー
一方のクビリーはチャンピオンズリーグもリーグカップも出場しておらず、延長戦があるのはフランスカップだけである。しかし、このフランスカップはクビリーにとって延長戦の連続であった。クビリーは5回戦から参戦し、準決勝まで9試合を戦っている。5回戦と6回戦はノルマンディー地区のチームで争われたが、初戦となる5回戦から延長戦で勝利を得ている。6回戦のパシー・シュール・ウール(CFA)戦は90分間の戦いで勝利したが、全国レベルになった7回戦は7部リーグに相当するPHのRCクレルモン相手に延長戦になり5-2と振り切り、8回戦は5部リーグに相当するCFA2部のフェイニエと対戦し、延長戦でも決着がつかず、PK戦で勝利している。年が明けてベスト32決定戦は6部リーグに相当するDHのレンヌTAと120分間戦って両チーム無得点でPK戦となり、勝利している。
ベスト16決定戦は2部のアンジェ戦、今大会で初めて格上のチームと対戦し2-0と90分で勝利している。ベスト8決定戦は同じナショナルリーグ勢のオルレアンと対戦、この試合も90分戦って0-0、延長戦で2点奪って勝利している。そして準々決勝はマルセイユとの延長の戦いを3-2と競り勝ち、準決勝のレンヌ戦は90分間で2-1と勝利している。すなわち、フランスカップ9試合のうち6試合は延長戦となり、延長戦までもつれ込んだ6試合すべてで延長戦あるいはPK戦で勝利をものにしているという驚異のチームである。
■延長戦での戦績が対照的な両チーム
単純に1部のビッグクラブ対3部のアマチュアチームというだけではなく、ノックアウト方式の試合につきものの延長戦での戦いぶりも対照的である。もちろん決勝戦も延長戦やPK戦にもつれ込む可能性は少なくない。その時にリヨンがチャンピオンズリーグのアポエル・ニコシア戦の2週間前のマルセイユ戦の悪夢から立ち直ることができるだろうか、そしてクビリーが7試合目の延長戦勝利をつかむだろうか。超満員となったスタッド・ド・フランス、いよいよキックオフである。(続く)