第1800回 秋の王者のマルセイユが消えたフランスカップ(2) バランシエンヌ、ニースを破る
おかげさまで第1800回の連載を迎えることができました。2001年9月の連載開始以来、ここまで来ることができたのも読者の皆様のおかげです。このたびフランスでは大変悲しい事件が起こりました。この連載ではしばしば人種差別について取り上げています。銃弾に倒れたジャーナリストをはじめとする皆様のご冥福を祈るとともに、暴力に負けず、ともに戦っていくことを改めて心に誓った次第です。今後ともご愛読のほどよろしくお願いいたします。
■1部勢12チームが下位リーグのチームの挑戦を受けて立つベスト32決定戦
前回の本連載は今年最初の週末に行われたフランスカップのベスト32決定戦での1部勢同士の対戦4試合を紹介した。1部勢同士の好取組も注目であるが、このベスト32決定戦で注目が集まるのは下位リーグのチームが1部のチームを倒すジャイアントキリングである。
前回紹介した1部勢同士が対戦した8チーム以外の12チームは下位のリーグのチームの挑戦を受けることになる。12試合の対戦相手のリーグ別の内訳は2部が4試合、3部に相当するナショナルリーグが3試合、4部に相当するCFAが1試合、5部に相当するCFA2部が1試合、6部に相当するDHが3試合となっている。
■孫子の代まで語り継がれるサンモールルシタノ、ボビニーの試合
1月3日はこのうち5試合が行われた。基本的に下位チームのホームで行われるため、ベスト32決定戦に勝ち残り、1部のチームを迎える町は大騒ぎ、小さなスタジアムは満員の観衆であふれかえる。そしてジャイアントキリングを果たそうとも、予想通り大敗しようともこの思い出は孫子の代まで語り継がれる。
その孫子の代まで語り継がれる歴史が今年も始まった。15時15分には1部勢が下位リーグのチームの挑戦を受けて立つ試合が3試合同時にキックオフされた。
パリ郊外のサンモールデフォッセ、レイモン・ラティゲとバネッサ・パラディの出身地として有名なこの町にもサッカークラブはある。ポルトガル移民のコミュニティをベースに生まれたサンモールルシタノ、ポルトガル代表と同じ色の赤と緑のユニフォームのチームは現在DHに所属する。古豪スタッド・ド・ランスを迎え、隣町のクレテイユのドミニク・デュボーシェル競技場を借りての試合となったが4000人の観衆が集まる。前半39分に先制を許すが、後半立ち上がりの46分に追いつく。しかしながらスタッド・ド・ランスは49分に勝ち越し、57分にも追加点、サンモールルシタノは新たな歴史をつくることはできなかったのである。
同時刻にキックオフされたのがパリ近郊のボビニー(DH)とエビアンとの試合。1部で18位と低迷するエビアン(1試合消化試合数が少ない)であるが、3-0と勝利し、下位チームの挑戦を退ける。
■マルティニークから大西洋を渡ってきたクラブフランシスカン
そしてフランスカップには世界各地の海外県・海外領土からのチームも参戦する。今回のベスト32決定戦に出場している64チームのうち、クラブフランシスカンはカリブに浮かぶ海外県のマルティニークからの出場である。海外県で試合を行うこともあるが、クラブフランシスカンはフランス本土に遠征してきた。クラブフランシスカンの相手は1部で7位のナントである。大西洋をはさみ、ワールドカップの会場にもなったボージョワール競技場は1万5000人を超える観衆が集まった。これだけで遠来のクラブフランシスカンの選手にとっては一生の思い出であろう。試合は地力に勝るナントが得点を重ね、4-0と大勝する。
■2部のバランシエンヌ、ニースを破る
日も暮れた18時キックオフの試合には2部のバランシエンヌとニースが対戦する。力の差の少ない2部勢が1部のチームを倒す確率は高い。
バランシエンヌは2部とは言えども1部と2部を往復する実力のあるチームである。ニースは1部で11位、バランシエンヌは2部で10位、昨年暮れは連敗して一年を終わっており、後半戦での上位進出のためにも新年最初の試合は勝っておきたいところである。
試合はアウエーのニースが支配したが、スコアはその逆になった。バランシエンヌは11分にマリ代表として活躍したアダマ・クリバリーが先制点をあげ、前半終了間際の44分にもリデル・プーポンが追加点をあげる。バランシエンヌは守備陣がプレスをよくかけ、守勢の試合ながら無失点にとどめ、今年初めてのジャイアントキリングを達成し、2-0と勝利、1部のニースは敗退となったのである。(続く)