第387回 2つのダービーマッチ (2) サンテエチエンヌ-リヨン戦

■サッカーが盛んなローヌ・アルプ地方

 前回の本連載ではプロバンス地方のイストルとマルセイユの対戦を紹介したが、今回はその翌日の3日の日曜日に行われたローヌ・アルプ地方のサンテエチエンヌとリヨンの対戦を紹介しよう。近年のフランスのプロサッカー選手の出身地はパリならびにその近郊が多い。その理由は職を求めてパリに移住してきた移民の子弟が、生活のためにプロスポーツ選手を志向するケースが多いからである。しかし、かつてのフランスでプロサッカー選手を多く輩出してきた地域はリヨンやサンテエチエンヌのあるローヌ・アルプ地方であった。その理由は競技としてのサッカーが盛んな地域だからである。本連載でも以前紹介したとおり、1998年に開催されたワールドカップの際はサッカーの盛んなこの地方で多くの国がキャンプを行った。日本がキャンプを行ったエクスレバンのこのエリアにあったことを日本の方はよくご記憶であろう。

■都市の力はリヨン、サッカーではサンテエチエンヌ

 そのローヌ・アルプ地方を代表する都市はフランス第二の都市リヨンである。サッカーの世界でこの地方を代表していたのは緑の軍団サンテエチエンヌである。サンテエチエンヌとリヨンのダービーマッチはフランスで最も注目を集めるカードであり、リヨンのジェルラン競技場、サンテエチエンヌのジェフロワ・ギシャール競技場は常に満員の観衆で埋まってきた。両者のこれまでの戦績はサンテエチエンヌ35勝、リヨン25勝、20引き分けであり、これが81度目の対戦となる。
 このところフランスのサッカー界を代表する地位にあるリヨンのオランピック・リヨネであるが、強豪チームとなったのは最近のことである。一方のサンテエチエンヌは栄光から遠ざかり、昨年までは2部に所属し、今季ようやく1部に復帰してきた。

■立場が逆転した両チームが4季ぶりに対決

 そのように立場が逆転した両チームの対決はローヌ・アルプ地方だけではなくフランス全体の注目を集めるカードとなった。リヨンはリーグ3連覇を果たし、チャンピオンズリーグでも上位を狙える力を付けてきた。今季もまずまずのスタートを切り、サンテエチエンヌ戦の直前の9月28日にはスパルタ・プラハとプラハで対戦し、2-1と勝利している。実はサンテエチエンヌも最後に欧州カップを戦ったのはプラハである。しかしそれは22年も前のことであり、1982-83シーズンのUEFAカップのベスト16決定戦のことである。ボヘミアン・プラハとホームで0-0と引き分けたサンテエチエンヌはプラハで0-4と敗れてしまう。欧州の頂点まで後わずかに迫った1970年代の栄光の遺産がこれでなくなった。サンテエチエンヌはこれを最後に欧州の舞台を去り、そして国内リーグでも優勝はおろか、1部残留もままならなくなり、2部で苦戦するシーズンが多くなる。
 そのサンテエチエンヌが1部に復帰し、ようやくフランス最高のダービーマッチが実現した。2000-01シーズン以来4季ぶりの対戦となる。実はこのサンテエチエンヌが2部に転落していた3シーズン、リヨンがリーグを3連覇している。つまり、リヨンがリーグチャンピオンとなってから初めてのダービーとなるのである。低迷しているとはいえ、リーグチャンピオンは自チームだけの称号であるとサンテエチエンヌのファンは思ってきた。まさかこの急勾配のスタジアムにリーグチャンピオンのリヨンを迎えるとは想像だにしなかったであろう。前日のイストル-マルセイユとは雰囲気が異なるダービーマッチとなった。

■フランス最高のダービーマッチにふさわしい試合展開

 久々のダービー、しかも相手はリーグチャンピオン、ジェフロワ・ギシャールは緑一色、リヨンのファンはわずか1500名である。試合展開もスリリングなものになった。まず先制点は35分にリヨンのジュニーニョ、リヨンリードで折り返す。サンテエチエンヌも後半開始早々の48分にマランが同点ゴール、満員のファンに力づけられた緑の軍団は60分にパスカル・フェインドゥーノが逆転ゴール。このまま時計の針は90分に近づくが、ここでドラマが起こる。87分にジュニーニョがこの日2点目のゴールで同点に追いつく。そしてロスタイムに入って2分経過したところでシドニー・ゴブーが劇的な逆転ゴール。4年ぶりの対戦はリーグチャンピオンのリヨンが緑一色のスタジアムを沈黙させ、3年間不在だったライバルを倒したリヨンは王者の称号をこれで確固たるものにしたのである。(この項、終わり)

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