第459回 監督交代相次ぐフランス(2) 1部の半数のクラブでシーズン中に監督が交代

■過去にはない大量の監督がシーズン中に交代

 前々回の本連載ではフランスカップ優勝監督のオセールのギ・ルー監督、そして前回の本連載ではリーグ優勝のリヨンを率いたポール・ルグアン監督を紹介し、二大タイトルの監督がいずれも交代したことを紹介した。しかしながら彼らの場合は交代というよりも勇退という表現がふさわしい。
 というのも、今季のフランス・サッカー界では従来に例の無いほどの監督がシーズン途中で交代したからである。数字だけを紹介すると、1部リーグ20チームのうち半数にあたる10チームの監督がシーズン半ばで交代、よりはっきりした表現を用いるならば更迭されている。そして2部リーグについては7チーム、3部リーグに相当するナショナルリーグでは9チームがシーズン中に監督を交代している。すなわち26のプロチームで監督がシーズン中に交代している。特に1部リーグの10人が交代というのは過去の歴史にはない最大の数字である。
 他の欧州の強国と比較しても1部リーグ20チームの国ではイタリアは監督交代があったのは8チーム、イングランドでは7チーム、スペインでは4チームだけであり、1部が18チームで形成されるドイツも5チームにとどまっている。このように欧州の他国と比べてもシーズン中の監督交代が多くなったことはフランスのサッカー監督に対するクラブの首脳陣、ファンの感覚が変わってきたことを示しているであろう。

■ビッグクラブの重圧が監督交代になったマルセイユ

 もちろん監督交代の理由はチームの成績不振によるものが中心である。開幕から最下位を低迷していたイストルは1月にメーム・バダレビッチ監督に見切りをつけ、グザビエ・グラブレーヌとジャン・ルイ・ガセに指揮をゆだねている。しかし、このイストルの前にすでに4チームが監督を交代している。アジャクシオ、ストラスブール、マルセイユ、ナントの4チームである。2部降格の危機にさらされていたアジャクシオ、ストラスブール、ナントはイストル同様に聞き脱出をかけての監督交代であったが、マルセイユの場合は事情が違う。マルセイユはリーグ戦で上位にいながら、宿敵パリサンジェルマンとの戦いに連敗したことがクラブの会長ならびに監督を交代するきっかけとなった。結局会長は留任したが、ジョゼ・アニーゴ監督に代わって日本でもおなじみのフィリップ・トルシエが監督に就任している。マルセイユの場合は人気チーム特有の監督交代劇であり、就任時の順位を守ることができなかったトルシエのシーズン後の評価は惨憺たるものであった。

■クラブ内部からの起用が中心となる後任監督

 しかし、シーズン中の監督交代にはリスクがある。まず、後任の監督を探そうにも有力な監督は他のチームの監督を務めているため、人選には限界がある。そして、監督をシーズン中で更迭しても残りの契約期間分の給与を支払わなくてはならず、新たな監督を招聘する場合にはクラブにとって2人分の人件費を払わなくてはならない。このような事情からシーズン中の監督交代はコーチやユースチームの監督などクラブ内部からの人材登用になるケースが多い。
 その結果として流れを変えることができず、過去のデータによるとシーズン途中で監督を交代したチームの60パーセントは交代前よりも順位を落としている。クラブ外部からマルセイユに来たトルシエの場合は、さらに大きくなったファンの期待を裏切る結果となった。

■監督の役割が変わるフランス

 監督という単語は不思議なもので国によって意味が異なり、これは重要な意味を持つ。フランス語の場合はentraineur、英語に直訳するとトレーナーであり、選手に練習をさせ、訓練をさせる存在である。これがマネージャーという表現であれば、その時その時の戦力に応じていかに持ち駒を作用させていくか、ということになるであろうし、コーチという表現であれば、選手に正しい指示を出して選手の能力を引き出すことに主眼が置かれる。フランスの監督の場合は選手の能力を伸ばすための訓練、練習に重きを置かれる。この場合、監督はある程度一人ひとりの選手を継続して育成しなければトレーナーとしての成果を残すことができない。したがって、フランスの場合、監督がシーズン半ばで交代することは決していいことではない。逆に言えば、時代が変わり、フランスの監督も他国のようにマネージャーあるいはコーチとしての役割を期待されるようになってきた、と考えることもできる。
 今年の監督交代劇はフランスという国が変わっていくことを示しているのかもしれない。(この項、終わり)

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