第921回 前半戦の首位、「秋の王者」(2) 前半戦と後半戦の違いが大きいフランスリーグ
■ドイツ生まれの「秋の王者」
前回の本連載ではフランスンリーグの前半戦をリヨンが首位で折り返し、5年連続で秋の王者という称号を得たことを紹介した。もともとこの「秋の王者」という称号はドイツで生まれたものであり、フランスも以前は前半戦の折り返しの時期と年末年始の休暇が一致しておらず、11月下旬が折り返し点であった。年末年始休暇と折り返し点が一致するようになったのは2003-04シーズンからのことである。現在でもスペインやイタリアでは一致していない。
■過去10季の秋の王者のうち半数は年間王者にならず
フランスにおいて、秋の王者がそのまま年間王者となるケースは実はそれほど多くはない。リヨンも初優勝してから3年間は秋の王者になることはできなかった。リーグ初優勝を果たした2001‐02シーズンは2位で折り返したが、ランスに勝ち点で7の差をつけられ、最終節での直接対決で優勝した。2年目は首位マルセイユとの勝ち点差は2で、順位は3位であり、3年目は首位モナコと勝ち点5差の2位で折り返している。また、リヨン7連覇以前の歴史をさかのぼれば、秋の王者が年間王者となったのは1999‐2000シーズンのモナコが最後であり、過去10季で秋の王者がそのままゴールインしたのは半数の5回にすぎない。
■心理的に厳しい試合を並行して戦うリーグ後半戦
このように秋の王者が優勝する確率が少ないのは、フランス特有のサッカーカレンダーの影響を無視できない。すなわち、リーグ戦の前半戦はチャンピオンズリーグのグループリーグやリーグカップの序盤戦という比較的プレッシャーの少ない試合がリーグ戦の合間に設定される。一方、後半戦の場合、欧州カップの決勝トーナメント、フランスカップというノックアウトシステムの試合が始まるとともに、UEFAカップの出場権のかかるリーグカップの終盤戦という心理的にもつらい試合をリーグ戦と並行して戦わなくてはならないのである。つまり、有力チームは過密日程と複数あるタイトル獲得を目指すために、後半戦は非常に厳しい戦いとなる。したがって、前半戦を快調に飛ばしてきたチームであっても後半戦でリーグ戦以外のタフな試合の影響で調子を崩すケースは少なくない。象徴的なのが1998-99シーズンのマルセイユであろう。八百長疑惑で2部降格の経験もあるマルセイユは、2位ボルドーに勝ち点3差をつけた勝ち点44で前半戦を首位で折り返したが、後半戦はUEFAカップで勝ち進み、国内リーグでの戦闘力をダウンさせざるを得なかった。結局リーグ戦はボルドーに優勝を譲り、UEFAカップは決勝でパルマ(イタリア)に敗れている。
■貯金の少ないリヨン、国内外のタイトル獲得なるか
7連覇と欧州の有力リーグでは稀有な強さを誇るリヨンであるが、チャンピオンズリーグやフランスカップ、リーグカップではこれといった成績を残していない。7連覇の前期にあたる3年目の優勝まではリーグ戦で後半盛り返す代わりに、チャンピオンズリーグやフランスカップでは早期敗退していた。逆に後期に相当する4年目から今季までは国内リーグ戦は前半戦で貯金を作り、後半戦はチャンピオンズリーグやフランスカップに死力を尽くす戦いをするようになり、ようやく昨季はフランスカップを制覇した。
しかし、今季はそのリヨンが狙い通りの戦いをしているとは言い難い。11月下旬から調子を崩し、チャンピオンズリーグのグループリーグではバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)に首位を譲り、国内リーグ戦でも勝ちから見放され、追い上げられている。結局、前半戦を終了した時点で11勝5分3敗で勝ち点38、2位のボルドーは10勝5分4敗で勝ち点35と勝ち点の差は1勝分にしかすぎない。さらに過去4年間、秋の王者となっているリヨンの成績を比べると、勝ち点については2004‐05シーズンと2007‐08シーズンの39を下回る最低の数値であり、2位との勝ち点差についても2004‐05シーズンの3と並ぶ最小の数字である。2季前のリヨンは折り返しの段階で勝ち点50、2位との勝ち点差15というモンスターのような数字を残していたリており、今季とは相当のチーム力の差があると考えてもやむを得ないであろう。
リーグの前半戦と後半戦は全く違う戦いである、ということは欧州カップに勝ち残っているチームか否かに関わらず、1部20チームに共通したことである。なぜならば、1月最初の週末にはフランスカップのベスト32決定戦が組まれ、1部勢はここから登場することになる。1部チームはすべてのチームが年内に練習を再開するのである。(この項、終わり)