第836回 パリサンジェルマン、リーグカップを制す(4) 大ヒット映画「ようこそシュティの国へ」
■降格圏内のランスとパリサンジェルマン
今年のリーグカップの決勝に進出したパリサンジェルマンとランスは前回の本連載で紹介したとおり、10年前にスタッド・ド・フランスがオープンしたころにリーグカップ、フランスカップで活躍したチームであり、その後もリーグ戦では上位を争ってきた。しかし、今季のリーグ戦では両チームとも低空飛行、この決勝が行われる日には第31節が行われるが、第3節を迎える段階でランスが17位、パリサンジェルマンが18位という成績である。18位以下の3チームが2部に自動降格であり、両チームとも2部降格のがけっぷちでの戦いである。
降格圏内のチームの順位と勝ち点を紹介すると、15位ストラスブール(勝ち点35)、16位ソショー(35)、17位ランス(34)、18位パリサンジェルマン(32)、19位トゥールーズ(31)、20位メッス(17)であり、最下位のメッスを除くと近年の国内外のリーグやカップ戦で活躍の目立つチームが降格争いをしている。
■リーグ戦上位勢の争いだった昨年の決勝
今年のリーグカップは降格争いを行うチーム同士の決勝戦となったが、昨年の決勝は本連載の第708回から第710回で紹介したように、リヨンとボルドーの間で争われ、ボルドーが優勝している。昨年の決勝を行う段階でのリーグ戦の順位は、リヨンが1位、ボルドーは3位、そしてこの両チームはリーグカップでシード権が与えられる前年度のリーグ戦1位と2位であった。昨年と今年は決勝進出チームのリーグ戦での成績を見ても対照的である。
■ホームで勝てないパリサンジェルマン
パリサンジェルマンはシーズン開始直後から低迷し、初ゴールをあげたのが第3節、初勝利が第6節と言う状態であった。さらに、アウエーではそこそこの成績を残していたが、本拠地パルク・デ・プランスではなかなか勝つことができず、ホームでのリーグ戦は前半戦では1勝もすることができなかった。フランスリーグにおけるホームでの連続未勝利記録は2005-06シーズンのストラスブールが記録した11試合である。勝つことができなければこの記録に並ぶと言う年が明けた1月13日の第20節、ようやくホームでのリーグ戦初勝利をあげることができた。その本拠地での11試合目での初勝利の相手がランスであった。そしてこの本拠地での不振は当然ファンの不満の種であり、昨年のマルセイユ戦などでファンが騒ぎを起こしている。
■フランス北部をブームにした大ヒット映画
一方のランス、今季はUEFAカップにも出場し、予備戦は勝ち抜いたものの、1回戦でデンマークのFCコペンハーゲンに第2戦で延長の末敗れたことは本連載でも紹介してきた。UEFAカップに出場するくらいであるからファンの期待は大きかったが、国内のリーグ戦での初勝利はパリサンジェルマンよりもさらに遅く、第8節である。常に危険水域にあるシーズンを送ってきた。そしてフランスカップも初戦であるベスト32決定戦で2部のニオールに敗れている。
そのような暗いシーズンのランスであるが、ここになってこのフランス北部が春風とともにブームとなった。2月に封切りされた映画「ようこそシュティの国へ」が封切り後3週間で1260万人の観客動員という大ヒットを記録したからである。シュティというのはフランス北部の方言のことである。ダニエル・ブーンが主演、監督を務めるこの映画は南仏に住む郵便局長が転勤でフランス北部に転勤、家族は着いてこず、生活に苦労する。生活面の不便もあり、方言があり、言葉が通用せず、単身で赴任し、帰郷するたびに家族や元同僚から慰められる。そして、この北部の人々の暖かさに次第に受け入れられるようになり、残った家族も北部へ引っ越すことを決めるというストーリーの映画である。元々炭鉱地域であり、東欧やイタリアからの移民がこの地域のサッカーの歴史を作ってきたのは本連載でしばしば取り上げたとおりである。炭鉱の閉山により、この地域のイメージは低下してきたが、この大ヒット映画によって明るさを取り戻したのである。そしてこの大ヒット映画の存在がこのリーグカップの決勝の事件を呼ぶことになったのである。(続く)