第4回 フランス代表、初のアンデス越え(4) ブルー、赤一色のスタンドで敗戦
■真冬のサモラノ引退試合
さて、試合の4日前に14時間の長旅の末、サンチアゴに到着したフランス代表を待っていたのは彼らが経験したことのない「冬の8月」だった。気候の違いに対応するために試合までに十分な時間をおいて南半球のチリ入りしたのだが、この気候の違いが世界チャンピオンに微妙な影響を与えた。
一方のチリは先述の通り、ワールドカップ予選では全く精彩を欠き、22年前のパスポート偽造事件は断罪されず、日本行きは絶望的である。残る予選の試合は試合もあるが、2月に就任した代表監督のペドロ・ガルシアはワールドカップ予選の成績は2勝1分5敗と立て直すことができず、9月4日のベネズエラ戦を最後に辞任することを表明し、長らくエースとしてチリのサッカーを支えてきたイバン・サモラノもフランス戦で代表から引退することになっている。予選の中途段階でエースが辞任すると言うことが現在のチリサッカーの位置づけを物語っている。
27年前にはクーデターで血に染まったサンチアゴの国立競技場はサモラノの最後の雄姿を一目見たいというファンでナショナルカラーの赤で染まった。チリのファンは熱狂的であるだけではなくその赤い色彩が素晴らしい。赤い衣装に身をまとい、サッカーの神に捧げる賛歌を歌う情熱的な民衆の姿は皮肉なことに米国資本のコカコーラがコマーシャルフィルム用に撮影したほどである。
■王者フランス、赤一色のスタンドでまさかの敗戦
赤一色のスタンドに圧倒されたフランスは動きが悪く、満員の観客の声援を受けたチリが試合の主導権を握る。4分には69試合目で最後の代表ユニフォームとなるサモラノが期待に応えてお膳立てし、パブロ・ガルダメスが先制点、51分にレイナルド・ナビアがそれぞれ得点し、フランスは2点のビハインドを背負う。フランスが2点リードされるのは昨年4月26日にスタッド・ド・フランスで行われたスロベニア戦以来のことである。この時は前半スロベニアに2-0とリードされ折りかえすが、後半に入ってダビッド・トレゼゲ、ローラン・ブランが得点し77分に追いつき、ロスタイムにトレゼゲが勝ち越し得点を上げて3-2で逆転勝ちしている。しかし、ワールドカップ予選ですでに消化試合モードに入っているチリに思わず足下をすくわれた。フランスは73分にトレゼゲが1点を返すのが精一杯、サモラノの引退に花を飾ることになってしまったのである。レアル・マドリッド時代にサモラノはパリサンジェルマン相手に2年連続して欧州三大カップで苦汁を飲んでいるが、最後の赤いユニフォームで見事にグランブルーを下したのである。(この項、終わり)