第130回 絹の道、女子ワールドカップへの道(5) 敵地でイングランドに先勝、中国行きに王手
■プレーオフ決勝の相手はイングランド、ワールドカップ予選で初顔合わせ
強豪デンマークを破り、プレーオフ決勝進出を決めたフランスの相手は遅れて決定した。アイスランドとイングランドのプレーオフはフランスが決勝進出を決めた翌日の9月16日に第1戦がアイスランドのレイキャビクで行われ、第2戦は9月22日にバーミンガムで行われた。レイキャビクでの第1戦、イングランドはカレン・ウォーカーが2得点し、アウエーの試合を2-2と引き分ける。バーミンガムでの第2戦、ロースコアの引き分けか勝利でプレーオフ決勝に進むことができるイングランドは赤いユニフォームでアイスランドを迎える。終始イングランドが優位に試合を進めるが、ゴールネットを揺らすことなく、このままスコアレスドローか、と思われた試合終了4分前にアマンダ・バーが決勝点を上げ、フランス同様1勝1分でプレーオフ決勝に進出したのである。
イングランドはサッカーの母国であるが、過去3回開催された女子のワールドカップの本大会に出場したのは1995年のスウェーデン大会だけである。また、男子のワールドカップの予選でもフランスがイングランドと対戦したことはなく、ワールドカップ予選で初対決となる。(男子の欧州選手権に関してはホームアンドアウエーのノックアウト方式で行われた1964年スペイン大会予選の1回戦で対戦し、フランスが1勝1分でイングランドを下している。)プレーオフの第1戦は10月17日にロンドンのセルハーストパーク、第2戦は11月16日にサンテチエンヌのジョフロワ・ギシャールで行われる。
■男子イレブンを応援した翌日にジダンが女子イレブンを激励
プレーオフ第1戦に向けて、フランス代表は11日にクレールフォンテーヌに集合する。ちょうど10月12日には本連載の第116回から第119回で取り上げた男子欧州選手権予選のフランス-スロベニア戦が予定されており、男女の代表がクレールフォンテーヌに集合した。合宿2日めの夜に女子イレブンはスタッド・ド・フランスでの男子のスロベニア戦の応援に駆けつけ、久しぶりの国内での男子の快勝に貢献した。
その翌日、クレールフォンテーヌで合宿中の彼女たちを訪問したサッカー選手がいた。1998年ワールドカップの最優秀選手ジネディーヌ・ジダンである。ジダンは彼女たちを激励し、一緒に写真におさまる。同じ球技でも男女の交流が少ないのがサッカーであろう。そういう中で男子のスーパースターであるジダンが女子の代表チームを激励にきたということの言いは大きい。ジダンの激励の翌日、ロンドンに移動し、クリスタルパレスの本拠地での試合に備えたのである。
■攻撃力が売り物のイングランド
イングランドは女子サッカーも空中戦が生命線である。選手の待遇もフランスとは異なり、プロに準じており、プレミアリーグのビッグクラブの女子チームに所属している選手がほとんどである。所属チーム別の最大勢力は23人中6人を占めるフラムである。女子サッカーの世界でワールドカップ常連国の日本の稲本潤一がこのチームを選択した理由もこのあたりにありそうである。(ちなみに第二の勢力は4人のアーセナルとリーズ・ユナイテッドである)守備にはやや難があるが、アイスランドとの第1戦のヒロインのウォーカー、第2戦のヒロインのバーという攻撃陣の2トップは強固であり、フランスの誇るマリネット・ピションがフィラデルフィア・チャージで2トップを組むケリー・スミスの負傷による離脱を感じさせない。
■チームワークを活かしてフランスがアウエーで先勝
一方のフランスはテクニックで勝負、そしてフランスは選手のキャリアが豊富であり、先発メンバーの平均代表Aマッチ出場数は50に近い。守備の要は主将のコリンヌ・ディアクレ、背番号5は男子で言えばローラン・ブランか。そして決戦を前にエリザベート・ロワゼル監督は「チームワークが勝負」と言い切る。そしてセルハーストパークでの試合がキックオフされた。イングランドはそれまで平均9000人の観衆を集めていたが、この試合の日程が直前に決められたこともあり、観衆はそれまでの平均に及ばない6000人。その少ない観衆の中に少なくとも3人のフランス人がいた。ロベール・ピレス、パトリック・ビエイラ、シルバン・ビルトールのアーセナル所属の男子フランス代表選手である。この3人の声援に応え、フランスはゲームを支配し、75分にエースのピションが決勝点を上げる。そしてこの1点を守りきり、フランスはイングランドに勝利する。フランスがワールドカップ初出場に王手をかけたのである。(続く)