第132回 本年最終戦、ユーゴスラビアに快勝(1) ドラガン・ストイコビッチとフランス
■名古屋グランパスエイトへはマルセイユから移籍
前回まで6回にわたり、本連載ではワールドカップ初出場を果たした女子の代表チームについて取り上げたが、日本の読者の方から11月20日のユーゴスラビアとの親善試合について取り上げて欲しいと言う強い申し入れをいただいた。すでに試合は終わってしまったが、この試合について取り上げることにしたい。
日本でユーゴスラビアへの関心が高い理由はドラガン・ストイコビッチの存在によるところが大きいであろう。ストイコビッチは日本で長期間活躍し、非常に素晴らしい実績を残したが、フランスとの関係も少なくない。名古屋グランパスエイトにはマルセイユから移籍してきた。途中、イタリアのベローナにレンタル移籍したこともあったが、ストイコビッチはフランスのマルセイユに4年間所属している。
■古巣レッドスター・ベオグラードに欧州チャンピオンズカップ決勝で敗れる
マルセイユにおけるストイコビッチにとって最も印象的なシーンは移籍初年度の1990-91シーズンの欧州チャンピオンズカップ決勝であろう。欧州チャンピオンズリーグでは事実上の決勝と言われた準々決勝で宿敵ACミラノを倒す。準決勝は日本遠征を終えたばかりで疲労困憊のスパルターク・モスクワに楽勝、イタリアのバーリで行われる決勝の相手はユーゴスラビアのレッドスター・ベオグラード、奇しくもストイコビッチが前年まで4季所属していた故国のビッグチームである。ストイコビッチはマルセイユ移籍後に膝を負傷し、この試合もベンチでキックオフを迎える。かつてのチームメートたちは、膝の調子が思わしくないストイコビッチが先発メンバーに名を連ねていないことを安堵するとともに、控えメンバーに入っていることに恐怖感を持つ。試合は予想通り、マルセイユが一方的に支配する。
ところが抜群の攻撃力を誇るマルセイユがゴールを奪うことなく時計は進み、試合は延長戦に突入する。そして延長後半の111分、ストイコビッチがついにピッチに姿を現す。しかし、試合は残りわずか9分。当時26歳以下の選手の国外移籍を禁止していたユーゴスラビアにおいて例外的に25歳で国外移籍を果たした天才も、その力を発揮することなく、タイムアップの笛。PK戦で欧州一を決することになり、マルセイユは3-5で敗れ、欧州一を逃すことになる。マルセイユ、ベローナ時代のストイコビッチはこれと言った活躍をすることなく、ストイコビッチが規定どおり国外移籍を1年待っていれば、彼の人生は大きく変わっていたであろう。
■18歳で代表デビュー、フランス戦に出場
またストイコビッチにとってフランスとの関わりはこれだけではない。ストイコビッチは好きな街としてパリをあげ、目標とする選手としてミッシェル・プラティニをあげているが、これは若き日の経験によるところが大きい。ストイコビッチが最初にユーゴスラビア代表のユニフォームを着たのは1983年11月12日の親善試合、弱冠18歳の時のことである。対戦相手はフランスである。この試合、ストイコビッチは後半から出場するが、スコアレスドローに終わる。
■欧州選手権、オリンピックでフランスに連敗した1984年夏
その翌年、ストイコビッチはフランスで開催された欧州選手権に出場する。グループリーグで2連敗のユーゴスラビアは2連勝のフランスと最終戦で対戦した。すでにグループリーグ敗退が決まっているユーゴスラビアは、開催国のフランスに一泡吹かせたいところである。前回の本連載で紹介した女子ワールドカップのプレーオフの舞台となったサンテチエンヌのジョフロワ・ギシャール競技場でこの試合は行われた。この大会無得点だったユーゴスラビアが31分に初得点をあげて先制、ところがその後ミッシェル・プラティニがハットトリックをする活躍で、ユーゴスラビアは逆転される。そしてフランスを去るユーゴスラビアは試合終了の10分前にPKを得る。このPKを決めたのがストイコビッチ。ストイコビッチにとって公式戦で初得点となったが、同時にこの試合でハットトリックを決めたプラティニに感動し、フランスの背番号10を目標とするようになったのである。
欧州選手権でグループリーグ3連敗に終わったストイコビッチにチャンスは訪れる。8月に行われたロスアンジェルス・オリンピックである。プロ選手の出場が認められるようになり、18歳のストイコビッチを擁するユーゴスラビアはグループリーグ3連勝、決勝トーナメント準々決勝でドイツを大差で破り、ローズボウルでの準決勝の相手はフランス。サンテチエンヌでの敗戦の雪辱を果たす機械となったが、延長戦にもつれ込み、2-4で敗れ、決勝進出を断たれる。ストイコビッチは3位決定戦でイタリアを下し銅メダルを獲得したが、18歳から19歳にかけてのフランスとの3試合は、ストイコビッチのフランスに対する憧憬の背景となっているのである。(続く)