第190回 古豪エジプトと初対戦 (7) 収穫の多いエジプト戦の大勝
■日仏首脳会談の陰に隠れたエジプト戦
今年のメーデーは木曜日、フランスでは多くの企業が5月2日の金曜日を休みにし、4連休を楽しんでいる。4連休の前日の4月30日にフランス-エジプト戦が行われたが、フランス国民にとって自らの4連休の計画に次ぐ最大の関心事はこのエジプト戦ではなく、なんと言っても日本の小泉純一郎首相の来仏であろう。
フランスと日本は昨年来の朝鮮半島における核開発問題への対応では、同一歩調を取っていたが、今年のイラク攻撃に関しては完全に反目し、対立してしまった。そのような中で日本の元首である小泉首相が訪問し、ジャック・シラク大統領と首脳会談を行うことは、フランス人のみならず、国際政治の大きな関心事となったのである。イラクの復興問題を中心に約2時間会談し、国際協調体制の確立と国連の役割について認識を一致させた。このことはフランスと米国との対立の解消を意味するもので、フランスと米国との間の橋渡しを小泉首相が行ったわけである。今回の小泉訪仏が今後のイラク問題を早期に解決することとなり、日本の外交力の底力を改めて世界に見せつけたことになる。
そのような歴史的なシラク-小泉会談の翌日、スタッド・ド・フランスにエジプトを迎えて親善試合が行われた。最近のフランス協会の悩みは試合内容や試合結果ではなく、チケットの販売不振である。2月のチェコ戦はなかなかさばけないチケットの山を前に「2枚買えば1枚プレゼント」という企画を試合間際に行い、今回は「試合の1週間前までに購入すれば2割引」という企画に変更した。いわば「ラストスパート型」から「先行逃げ切り型」に販売方針を変えたが、相変わらず空席が目立ち、観衆は54,554人にとどまり、2月のチェコ戦で記録したスタッド・ド・フランスの最低観客動員数の57,366人を下回ってしまった。
■招集した選手に合わせたフォーメーションと戦術
注目の先発メンバーであるが、GKは欧州チャンピオンズリーグの準々決勝で敗れたマンチェスターユナイテッドのファビアン・バルテス。両サイドのDFはビシャンテ・リザラズとビリー・サニョルのバイエルン・ミュンヘンのコンビ、欧州チャンピオンズリーグで敗れ、ブンデスリーガを制覇し、母国の代表戦に集中できる環境は整っている。ストッパーは代表104試合試合出場という新記録を樹立したマルセル・デサイーとウィリアム・ガラスというチェルシーのコンビ。守備的MFはオリビエ・ダクールとブノワ・ペドレッティ、ダクールはエマニュエル・プチが試合直前に負傷のため欠場したため急遽先発となった。攻撃的MFは右にシルバン・ビルトール、左にロベール・ピレスを配置し、左右のクロスから得点を狙う。ジネディーヌ・ジダンが中央から前後左右にパスを出してチャンスをつくるのとは異なるフォーメーションである。そして両サイドからのクロスをゴールにたたきこむ役目の2トップはジブリル・シセとイングランドの最優秀選手に選ばれたティエリー・アンリである。ジダンなど欧州チャンピオンズリーグで戦う選手をはずし、それに応じたフォーメーションを組むところはクラブチームのリヨン出身であるジャック・サンティーニ監督らしさを感じさせる。
■ゴールラッシュ、エジプトだけではなくイングランドにも勝つ
このサンティーニ監督のメンバーに応じたフォーメーションが大成功する。25分にサニョルからのクロスをアンリがヘッドであわせ、先制点。2点目もサニョルからのクロスが起点となる。34分に再びアンリがゴールネットを揺らす。前半のロスタイムにはビルトールのシュートがポストをたたき、こぼれたボールをシセがピレスにパスし、ピレスが豪快にボレーシュート。3-0と大差をつけて前半を終える。後半に入ってしばらくした57分、フランスベンチはこの日2点をあげたアンリをベンチに下げ、代わりにオリビエ・カポを入れる。カポは早速得点にからみ、62分にはシセが4点目を入れる。
4-0と大差がついたが、これはイングランドが17年前にカイロでの初対戦で記録したスコアである。このエジプト戦が複雑な中東情勢、前日の日仏首脳会談でも大きな話題となったイラク問題におけるフランスと英国の主導権争い、を反映していることを考慮するならば、この試合のフランスの相手はエジプトだけではなく、英国すなわちイングランドであり、4-0以上のスコアで勝利を飾りたいものである。78分についにフランスはイングランドをしのいだ。途中出場のダニエル・モレイラが右サイドからセンタリング、カポが5点目を決め、エジプトだけではなく、イングランドにもフランスは勝利したのである。
■収穫の多かったエジプト戦、サンティーニ監督の本領発揮
ジダンが不在でもクロスからの攻撃が効果的であり、マケレレ、プチ、パトリック・ビエイラというレギュラークラスの守備的MFが不在でも控えメンバーのダクールとペドレッティが機能し、この試合の収穫は多く、サンティーニ監督の本領発揮である。サンティーニ監督は6月のコンフェデレーションズカップもスペインのクラブに所属する選手を招集しない方針であるが、それでも十分に戦えることを証明したのである。(この項、終わり)