第216回 コンフェデレーションズカップ2003 (5) 王者復活、過去5年間で4度目の栄冠
■過去にフランスが勝ったことがないカメルーン
マルク・ビビアン・フォエ選手の急逝に見舞われた今回のコンフェデレーションズカップ。悲しみを乗り越えて、予定通り決勝は行われた。プロサッカー選手として最も長い期間フォエ選手が在籍し、成長し活躍した国フランス。1997-98シーズンのランス、2001-02のリヨンと2回の初優勝の立役者となったその功績は言葉では表し尽くせない。そのフォエ選手の功績をたたえ、冥福を祈る黙祷が両国国歌の前に行われた。
試合はフォエ選手のオマージュにふさわしい素晴らしい試合になった。今大会出場国の内でフランスはニュージーランド以外のブラジル、日本、トルコ、コロンビア、米国、カメルーンと対戦したことがある。この中でカメルーンだけは今までフランスが勝利をあげたことがない。カメルーンは1980年代から世界の桧舞台で活躍するようになり、フランスから独立した国であり、政治・経済・文化はもちろん、サッカーの世界でも非常にフランスとつながりの深い国であるが、不思議なことに2000年を迎えるまでフランスとの対戦はなく、2000年10月にスタッド・ド・フランスで親善試合を行ったのが両国の最初で唯一の対戦であり、この時は1-1で引き分けている。元々フランスは西アフリカ諸国との対戦に乏しく、身体能力の高い西アフリカ対策を怠っていたことが、昨年のワールドカップ開幕戦のセネガル戦での敗戦につながったと言われている。前回の対戦がホームでの試合であったことを考えるならば、フランスは勝たなければならない。そして素晴らしいサッカーを繰り広げ、勝つことこそ、フォエ選手の第二の故郷であるフランス・サッカーとしてのフォエ選手への最高かつ唯一のオマージュである。
■シーズン最終戦の先発メンバー11人
フランス・サッカー界にとってシーズン最終戦となるこの決勝戦、ジャック・サンティーニ監督がピッチに送り込んだ11人は次のとおりである。GKはファビアン・バルテス、DFは左からビシャンテ・リザラズ、ウィリアム・ガラス、マルセル・デサイー、ビリー・サニョル、MFは守備的位置にブルーノ・ペドレッティ、オリビエ・ダクール、攻撃的位置にシルバン・ビルトール、ルドビック・ジウイ、FWはジブリル・シセとティエリー・アンリ。準決勝とは4人が入れ替わり、出場停止処分を受けていたサニョルがリリアン・テュラムに代わり、首脳陣の信頼を得たジウイが切り札のロベール・ピレスに代わって先発メンバーとなる。
■延長戦にピリオドを打ったティエリー・アンリのスピード
試合は前半からフランスがアンリを中心に果敢にゴールを狙うが、ゴールネットを揺らすことなくハーフタイムを迎える。そして後半に入るとコロンビア戦、日本戦、トルコ戦同様、フランスが守勢一方になる。フランスの足が止まったというよりは交代出場してきたサミュエル・エトーがスーパージョーカーぶりを遺憾なく発揮し、たった1人の交代選手が試合の流れを変えたと言えよう。フランスのサンティーニ監督も後半にピレス、テュラム、オリビエ・カポを投入し、3人の交代枠を使いきる。しかしながら、両チームゴールネットを揺らすことなく、90分が終わり、延長戦に試合は突入する。
この緊迫する状況に終止符を打ったのはアンリの一撃であった。97分、サニョルに代わって右サイドDFに入ったテュラムが前方にロングパス。ボールをコントロールできないカメルーンの守備陣の間を走り抜けるスピードを持ちうるのはこの男しかいない。背番号12のアンリである。ゴールデンゴールを上げたアンリは、様々なドラマのあったコンフェデレーションズカップのヒーローとなったのである。今大会をあげ、昨年のワールドカップでは不振だったが、昨季はアーセナルで活躍し、プレミアリーグの最優秀選手に選出されている。今大会の全試合出場、4得点という活躍は約束されたものであった。
■ワールドカップ惨敗を忘れさせる多彩なメンバーとシステム
アンリ以外にもピレスも復調、新星ジェローム・ロタンの攻撃力も評価できる。そして今大会主力選手が相次いで離脱し、最も層が薄いと懸念された守備的MFについてもペドレッティ、ダクールが大活躍し、パトリック・ビエイラ、クロード・マケレレ、エマニュエル・プチも夏以降はうかうかしていられない立場であろう。ジネディーヌ・ジダン1人を欠いて韓国で惨敗したのがわずか1年前であるとは信じがたいことである。過去5年間のワールドカップ、欧州選手権、コンフェデレーションズカップでフランスが栄冠を逃したのは昨年のワールドカップだけである。コンフェデレーションズカップの価値を疑問視する意見も少なくないが、重要なのはベストメンバーではない布陣で、状況に応じたシステムとメンバーをやりくりし、押し込まれる時間帯もある中で競り勝ち、結果を残したと言うことである。昨年の今ごろはロジェ・ルメールの後任監督が話題になっていた。内外の協会出身ではなく、クラブチーム出身の監督を後任に選出したことが今回の栄冠につながったと評価できよう。(この項、終わり)