第246回 アラブチャンピオンズリーグがスタート

■アフリカとアジアをまたいで行われるアラブの大会

 前回は中東サッカーの新たな動きとして、フランスから選手や監督が移籍したカタールを取り上げた。実は、カタールだけではなく、このエリアに大きな地殻変動が起こっている。サッカーの世界はFIFAという世界レベルの組織の下にUEFAやAFCなど大陸別の連盟があり、この大陸ごとに選手権が行われ、ワールドカップの予選が行われている。しかし、アフリカやアジアという地理的なエリアではなく、アフリカとアジアをまたぐアラブという文化的なエリアで大きな動きが起こっている。それが今回紹介するアラブチャンピオンズリーグである。
 アラブサッカー連盟が主催してきたクラブレベルのトーナメントの歴史をひもとくと、17回争われたアラブチャンピオンズカップと12回争われたアラブカップウィナーズカップが統合され、ファイサル・ビン・ファハド王子記念アラブクラブトーナメントとなり、第1回大会は2002年8月にモロッコで行われる予定であったが、翌年1月に延期され、第2回大会は2003年7月にエジプトで開催された。

■大スポンサーがつきアラブチャンピオンズリーグがスタート

 これらの大会には中東と北アフリカのアラブ諸国の強豪チームが参加していたものの、集中開催であるため、大陸ごとに行われるアジアクラブ選手権やアフリカクラブ選手権との日程上の問題は生じなかった。ところが、この大会にアラブ世界を代表するケーブルテレビ局がスポンサーとなったことからその姿が変容した。「アラブチャンピオンズリーグ」と名称が変わった。
 この大会の魅力はなんと言っても賞金と待遇である。優勝賞金は200万ドル、そして航空運賃、5つ星ホテルの宿泊費も主催者負担である。その一方、大会が長期間にわたるため、大陸別のクラブ選手権や各国リーグとの日程面の問題が生じてきた。アジアの中東諸国は参加をすぐに決定したが、北アフリカ諸国はこの大会に参加するかどうかが、アフリカクラブ選手権との兼ね合いからその態度が注目されたが、北アフリカの7か国のチームが出場することを決定した。
 大会には21か国から32チームが参加するが、FIFAランキングの上位8か国からは2チームずつ、それ以外の13か国からは1チームずつ、そして主催者からの推薦でサウジアラビア、エジプト、チュニジアには3チーム目の出場権が与えられた。

■9月に始まり来年6月まで続く長丁場の大会

 大会形式は32チームがアジアブロック16チームとアフリカブロック16チームに分けられる。まず9月末から10月にかけて、ホームアンドアウエーで1回戦を行い、その勝者16チームはアジアとアフリカに関係なく、4チームずつ4グループに分けられ、グループリーグを行う。グループリーグは10月末から3月初めまでホームアンドアウエーのリーグ戦であり、各チーム6試合を戦うことになる。各グループの上位2チームが決勝トーナメントに進出し、準々決勝、準決勝を3月中旬から6月初旬にかけてホームアンドアウエーで行う。3位決定戦が6月22日に行われ、決勝は6月29日にヨルダンのベイルートで行われることになり、欧州チャンピオンズリーグとほぼ同じ期間行われる長丁場の大会となった。

■アラブチャンピオンズリーグが与える様々な効果と影響

 この大会はクラブ経営が脆弱で、大会運営もおぼつかないアフリカのチームにとっては朗報である。アフリカサッカー連盟が主催するアフリカクラブ選手権と比較すると、アラブチャンピオンズリーグの優勝賞金は2倍であるが、大会予算は6倍であり、これが航空運賃や滞在費を主催者が負担できる資金源である。アラブ社会では欧州チャンピオンズリーグやワールドカップ以上の放送コンテンツとなることは確実であ
る。
 そしてこの大会は経済的な側面だけではなく、競技面でも大きな効果がある。今まで人材が欧州に流出していた北アフリカや中東のチームは人材を国内に引き止めることが可能になり、レベルアップは確実である。前回の本連載で紹介した通り、イスラム系の選手がこの大会に出場するためにこのエリアのクラブに移籍を志願することも十分に考えられる。
 その結果、アフリカからイスラム系の選手を多く受け入れてきたフランスリーグは影響を受けることになり、日本や韓国などの東アジアのクラブもアジアクラブ選手権ではレベルアップした中東勢相手に苦戦することになるであろう。しかし、このアラブチャンピオンズリーグがアラブ社会に与える社会的なインパクトは大きく、従来の地理的なブロックとは異なる社会的なブロックの形成に一役買うことになるであろう。そしてこのアラブチャンピオンズリーグの発足に一番恐怖感を持っているのがイスラエルであることは間違いない。そのイスラエルはユダヤサッカーの威信をかけて聖地スタッド・ド・フランスに乗り込むのである。(この項、終わり)

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