第260回 宿敵ドイツと対戦(6) 敵地で記録的な勝利

■若手が22歳以下の代表に回り、新人ゼロ

 第254回の本連載で、本大会で好成績を残すためには本大会直前のシーズンで代表にデビューする新戦力が必要と書いた。11月6日に予選突破後初の試合となるドイツ戦のメンバーが発表されたが、そのリストはファンの楽しみを奪うものであった。まず、初選出のメンバーがいなかったということ、そして期待の若手のジブリル・シセ、フィリップ・メクセスが代表メンバーから外れたことである。
 実はこの2つは相反することを象徴している。正確に表現すると、シセとメクセスはドイツ戦のメンバーから外れたのではなく、アンダーエイジの22歳以下のフランス代表に選出されたのである。22歳以下のフランス代表は来年5月に行われる22歳以下の欧州選手権のチケットをめぐって予選を戦い、本大会出場をかけてポルトガルと15日と18日にホームアンドアウエーで戦う。22歳以下の欧州選手権は8チームが参加するが、上位3チームがアテネオリンピックの出場権を獲得することができる。1984年に欧州選手権とオリンピックを制したことのあるフランスにとって20年ぶりの二冠も夢ではない。しかしそのためには本大会に出場することが前提であり、フル代表は出場権をすでに獲得したものの、オリンピック代表はまだまだ遠い道のりが待っている。
 フル代表のジャック・サンティーニ監督は「フル代表に優先権がある」と発言しているが、本心ではフランス・サッカー界の重鎮であり、22歳以下の代表監督レイモン・ドメネシュに何らかの遠慮があることは想像に難くない。

■熱狂的なファンが支えるゲルセンキルヘン

 新生ドイツとは前々回の連載で紹介した通り、フランスの2戦2勝であるが、昨年のワールドカップで準優勝し、一時騒がれた低迷から脱出し、今予選でも楽々とポルトガル行きのチケットを手にしている。しかも今回のホームゲームの舞台はゲルセンキルヘンのアレナ・アウフシャルケ、熱狂的なファンで知られるシャルケ04の本拠地である。メンバーもオリバー・カーン主将はもちろん、昨年のワールドカップに出場できなかったイエンス・ノボトニーもリストに名前を連ねている。

■ティエリー・アンリ、ダビッド・トレゼゲの活躍

 熱狂的なファンの歓声の中、前回のワールドカップ準優勝のドイツは黒、前々回のワールドカップ優勝のフランスは白のユニフォームでピッチに姿を現す。ちょうど試合の朝、パリ郊外のユダヤ人学校が放火されるという残念な事件もあったが、この残念な事件のショックを忘れさせるような見事な試合展開をフランスイレブンは展開した。
 まず、21分にティエリー・アンリが先制点。アンリは得点者としてだけではなくパス役としても活躍し、後半に入った54分にはダビッド・トレゼゲの追加点のお膳立てをする。さすがのワールドカップ最優秀選手も2失点目を喫する。そして81分にもアンリからのパスを受けたトレゼゲのシュートがゴールネットを揺らす。ドイツの攻撃陣をバイエルン・ミュンヘンに所属するビリー・サニョルや守備的MFのリリアン・テュラムが完璧に封じて、ドイツは無得点に終わり、普段は青と白のマフラーで熱狂するスタジアムは完全に沈黙してしまう。

■記録的な勝利でドイツに3連勝

 この結果、フランスはドイツに対して3連勝。しかも、今までドイツに対する3点差の勝利は1958年のワールドカップ3位決定戦の西ドイツ戦、そして1990年にクウェートで行われた三国対抗の東ドイツ戦だけであり、いままで敵地で勝っても僅差のスコアばかりであったことを考えれば、歴史的なスコアであると言えよう。また、1987年以来フランスはドイツ勢に負けておらず、完全にお得意さんとなっている。これでフランスは今年の最終戦を白星で飾るとともに、グランドスラムは単純にドローに恵まれただけではなく、実力を備えていたことを証明し、完全に昨年のワールドカップのショックから立ち直ったといえよう。
 残る親善試合は3試合、強豪相手の親善試合で磐石のメンバーに新しく入り込む新人の出現が楽しみである。(この項、終わり)

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