第277回 フランスのサッカーファンの初夢

■人気急落のフランス代表、欧州カップで勝てないクラブチーム

 この何年かのフランス・サッカーを取り巻く状況は決していいものではなかった。もちろん、1998年のワールドカップ優勝、2000年の欧州選手権優勝と言うビッグタイトルを連取したものの、ごく一部の選手に戦術を徹底して短期決戦を勝ち抜くという戦略は一つ間違うと2002年のワールドカップのような惨敗にもつながってしまうことを露呈した。
 ジャック・サンティーニ監督になってからは選手を入れ替えるとともに、過去の実績や代表チームの戦術理解度よりも所属クラブでの活躍を優先した選手起用を行い、国内のクラブに所属する選手を登用し、13連勝と言うフランス代表記録を更新中である。しかし、スタッド・ド・フランスでの代表の試合は空席が目立ち、試合を行うたびに最少観客数の記録を更新するという現象も起こっている。
 そして、選手の国外流出はフランスのクラブチームの戦力ダウンを招き、欧州カップでは上位進出どころか早期敗退が続いている。奇しくも代表チームが世界の頂点を極めた1998年以降、欧州チャンピオンズリーグでは惨敗続きであり、フランスのサッカー界がいかにバランスを崩しているかがよくわかる。

■サッカー界に打撃を与えた他のスポーツの隆盛

 そしてフランスのサッカー界に決定的な打撃を与えたのが他のスポーツの活躍である。本連載の読者の方ならばよくお分かりであるが、現在のフランス人の若者にとってアイドルはジネディーヌ・ジダンではなくなってしまっている。フランスの若者の取って最大のアイドルは隣国にいるジダンではなく、大西洋の彼方にいるトニー・パーカーである。そして昨夏にスタッド・ド・フランスで行われた陸上の世界選手権は1998年のサッカーのワールドカップをはるかにしのぐ盛り上がりを見せた。豪州で行われたラグビーのワールドカップでは準決勝で優勝したイングランドに敗れたものの、フランスラグビーの伝統と意地を見せた。前年に開催されたサッカーのワールドカップとは同じ時差があったが、テレビ視聴者数はサッカーのワールドカップをはるかに上回ったのである。自転車のツール・ド・フランスは100周年を迎え、地元選手の活躍もあり、フランス最大のスポーツイベントであることを再認識させた。またアテネオリンピックを控え、各種球技も強化に励み、出場権を目指しており、早々と敗退したサッカーの影はますます薄くなるばかりである。今世紀に入ってからのフランスではサッカーはスポーツの主役ではないと言えよう。サッカーが流行から外れているだけではなく、外れてしまった必然性も明白なのである。

■欧州の頂点を目指す6つのクラブ

 しかし、今年はサッカーのカウンターアタックが期待できる。まず、クラブレベルでのフランスのチームの欧州カップでの活躍が期待できる。今季の欧州チャンピオンズリーグ、UEFAカップのフランス勢の活躍については本連載の第267回から第275回で紹介したとおりであり、現段階でなおも6チームが欧州の頂点を目指している。現段階で欧州カップには19か国の48チームが残っているが、フランスの6チームはスペインの8チームに次ぐ数字で、イタリアと並んでいる。しかも2月末と3月初めに行われる欧州チャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦とUEFAカップ3回戦の組み合わせについては4チームについてはかなり楽な相手と対戦することになっていることは前回の本連載で紹介したとおりである。マルセイユが決勝で敗れた1998-99シーズンのUEFAカップ以来久々に欧州カップでのフランス勢の上位進出が期待できる。

■連覇も十分に期待できる欧州選手権

 そしてフランスのクラブチームが欧州を制した直後にはポルトガルで欧州選手権が行われる。予選でグランドスラムを達成したフランス代表は安定した成績を残しており、連覇も十分に考えられる。クラブレベルでも代表チームレベルでもフランスのサッカーが欧州の頂点に立つ可能性を感じさせる新春は1996年以来のことである。このときはパリサンジェルマンがカップウィナーズカップを制し、フランス代表は欧州選手権準決勝に進出した。それをしのぐ成績を予感させる年の初めである。(この項、終わり)

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