第312回 オランダと対戦(3) スティード・マルブランクが代表入り

■ポルトガル行きの最後の選手選考

 ポルトガルの欧州選手権までに残された試合の機会は今回のオランダ戦を含めてわずか4試合、そしてオランダ戦の次の親善試合は5月20日のブラジル戦まで間が開いてしまう。すなわち、ポルトガル行きのメンバーに入るための最終試験がこのオランダ戦であるといっても過言ではない。したがって、このオランダ戦は試合内容やチームの仕上がりという点よりはむしろポルトガル行きの選手選考に注目が集まった。

■出場停止のジブリル・シセ、復帰なるかニコラ・アネルカ

 特にFWのニコラ・アネルカの動向が注目された。アネルカは2002年11月のユーゴスラビアとの親善試合の際に負傷者の穴を埋める目的で招集されたが、この際に「代役」という立場に不満の意を示し、代表を辞退。結局、所属するクラブでの国内リーグ戦の出場停止という処分を受けたばかりでなく、その後ブルーのユニフォームに袖を通すことなく今日に至っている。そのアネルカはこのオランダ戦が代表復帰の最後のチャンスであると心得ており、公式にジャック・サンティーニ監督に謝罪をしている。さらに、FWのジブリル・シセが昨年11月に行われた21歳以下欧州選手権の予選プレーオフ第2戦で退場処分となり、その後5試合公式戦出場という重い処分を受けた。今後フランス代表を待っている公式戦は欧州選手権の本大会までない。すなわち公式戦5試合出場停止ということは欧州選手権ではグループリーグ3試合、決勝トーナメントに勝ち残っても1回戦、準決勝は出場することができない。決勝戦だけしか出場できない選手をポルトガルに連れて行くわけには行かない。

■アネルカ代表入りならず、ジョアン・ミクー久々の復帰

 このようにアネルカ復帰というお膳立てがなされ、3月25日のメンバー発表は今までにない緊張の中で行われた。しかしながら、サンティーニ監督の発表したリストにはアネルカの名前はなかった。FWは4人選出され、レギュラー確実であるティエリー・アンリとダビッド・トレゼゲのほかにはスティーブ・マルレ、ペギー・リュインデュラという国内のクラブに所属し、欧州カップで活躍する2人が選出された。また、ベルギー戦でリュインデュラとともに代表デビューし、デビュー戦でゴールをあげたルイ・サアは選出されなかった。
 そしてアネルカやサアの落選とは逆に代表入りをしたのがジョアン・ミクーである。ミクーはこれまでに代表16試合に出場している30歳のベテラン選手であるが、最後に代表のユニフォームを着たのは2002年6月11日、すなわちワールドカップのグループリーグで敗退したデンマーク戦以来のことである。サンティーニ監督になってからミクーは初めて選出され、驚きを与えた。ミクーはワールドカップ直前にはジネディーヌ・ジダンの代役として親善試合で起用されていたが、ジダンが不在となった本大会ではその力を発揮できず、それ以来代表を離れていたが、ブンデスリーガでの活躍を認められての選出となった。

■相次ぐ負傷者、ジダンの代役にマルブランク

 25日のメンバー発表以降、続々と選手が負傷のため代表から外れた。マルレ、パトリック・ビエイラ、ロベール・ピレスが出場不可能となり、シドニー・ゴブー、ブノワ・ペドレッティ、ブルーノ・シェイルーを招集する。そして試合の2日前の29日、ミクーを選出したサンティーニ監督はこの事態を予測していたのであろうか、ついにジダンまでメンバーから外れたのである。ジダンの代役はミクーで決まりというシナリオはあったにせよ、サンティーニ監督はついに代表未経験の選手を招集したのである。
 その代表未経験の新人こそ、国籍問題で物議をかもしたスティード・マルブランクである。本連載第296回で紹介したとおり、ベルギー生まれのマルブランクは2月12日のベルギーとの親善試合の前後に「フランス代表に選出されないならばベルギー代表入りする」と表明したことから話題になった。ジダンの第二の代役という意味もあるだろうが、むしろプレミアリーグで活躍しているゲームメーカーをベルギーに奪われないための防衛という意味のほうが大きいであろう。サンティーニ監督の契約期間は今回の欧州選手権終了時までであるが、当然その後も代表チームの監督の座に居続けることを狙っているであろう。そのためにはFIFAの国籍条項の変更による選手の流出を未然に防ぐことは当然の判断である。さまざまな思いが絡み合い、ロッテルダムでのキックオフを迎えるのである。(続く)

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