第566回 3つの親善試合、中国戦、ジブリル・シセを負傷で失う
■デンマーク戦の翌日に行われた練習試合
フランスが大会前に準備した3つの親善試合、メキシコ戦とデンマーク戦は守備陣ならびに中盤は同じメンバーを先発させた。メキシコ戦と比較するとデンマーク戦の試合内容は進歩したが、気になるのはバックアップメンバーである。23人のメンバーのうちこの2試合に出場した選手は実に20人、控えのGKとなったグレゴリー・クーペ、ミカエル・ランドロー、ガエル・ジベの3人は出番がなかった。またデンマーク戦に出場した選手は16人であるが、交代出場した5人はいずれも後半途中からの出場である。出場時間が不十分な選手にも試合の感覚を持たせるためにデンマーク戦の翌日の6月1日、フランスリーグの選手会チームとの練習試合を同じランスのフェリックス・ボラールで行っている。この選手会のチームのメンバーの中にはピエール・レーグルのようにかつてフランス代表選手として活躍し、今季限りで現役を引退することを表明している選手もおり、フランス・サッカー界が代表チームに協力する意図がよくわかる。
■1年越しで実現した中国戦、大統領も臨席
そして迎えた最後の親善試合は6月7日にサンテエチエンヌで行われた中国戦である。最後の練習試合は力の劣るチームと行い、快勝していいイメージを持って本大会に臨むというのが強国のセオリーである。ところがフランスの場合の中国は確かに本大会出場を逃したチームであるが、単純に代表チームの活動の一環として組まれた試合ではない。本来ならば昨年の今頃、フランス代表は中国遠征を行う予定であった。現在のフランスにとって政治・経済の面で不可欠なパートナーである中国との親善試合こそ、政界、財界の悲願であったが実現しなかった。そしてそれから1年、天安門事件から17年経つ6月7日に中国戦が実現したのである。
この試合はジネディーヌ・ジダンがフランス国内でプレーする最後の機会となったが、なんとジャック・シラク大統領が臨席することとなった。共和国大統領はパリで行われるフランスカップの決勝などに臨席することは恒例となっているが、地方で行われる代表の試合に臨席することは過去にはなかった事例であろう。奇しくも来年のサミットは今回のワールドカップ開催国のドイツ、これに向けた格好のデモンストレーションという見方もあるが、中国外交を重視するシラク大統領とその外交ブレーンのジャック・グラブローというジャック・コンビによる一大デモンストレーションである。
■若手中心の中国に対し苦戦
さて、フランスとしてはグループリーグで戦う仮想韓国とこの中国を見立てているが、中国はデンマークとは対照的に、ワールドカップ予選敗退後の成績は悪く、最近7戦の成績は2勝5敗である。また、メンバーも大幅に入れ替え、代表歴が2桁ある選手は数少ない。
そのような相手に対し、フランスのメンバーは中盤以下についてはメキシコ戦、デンマーク戦と同じである。2トップにはメキシコ戦先発のジブリル・シセとデンマーク戦先発のティエリー・アンリを起用する。2トップのレギュラーの確保のために力を見せたいところである。ところがシセにとって魔の試合となった。13分に相手のタックルを受け、右足を負傷、ダビッド・トレゼゲと交代する。29分にはそのトレゼゲがアンリからのパスを受けて先制点を決め、1点リードしてハーフタイムを迎える。後半に入り68分にはエリック・アビダルがペナルティアリアの中でファウルを犯し、PKを与えてしまう。中国はこのPKを決めて同点に追いつく。シセの負傷に加えて同点に追いつかれ、ジェフロワ・ギシャール競技場には暗雲が立ち込めた。ようやく後半終了間際の89分にフランク・リベリーのセンタリングを中国の選手のオウンゴールによりフランスは勝ち越す。さらにロスタイムに入った93分にアンリが30メートルのシュートを決めて3-1と中国との初対決を制す。
■4年前の悪夢を思い出すファン
シセは2004年の欧州選手権はアンダーエイジの代表試合で受けた出場停止処分で本大会のメンバーから外れている。そして今回も負傷のためメンバーから外れ、代わりにシドニー・ゴブーが招集された。ゴブーは2004年の欧州選手権でもルドビック・ジュリーの負傷で追加招集されている。最後の親善試合で勝利したものの、4年前の韓国との試合でジネディーヌ・ジダンを失った悪夢を思い出したファンは少なくないはずである。(この項、終わり)