第637回 本年最終戦ギリシャ戦(1) ゴンサロ・イグアイン、フランス代表入りを辞退

■貴重なテストの機会となるギリシャとの親善試合

 9月に始まった欧州選手権予選ではスコットランドに敗れたとはいえ、まずまずのスタートをきったフランス代表、11月15日には本年最後となる親善試合が行われる。親善試合の相手は現在の欧州チャンピオンであるギリシャである。本連載でも紹介したとおり、2年前のポルトガルでの欧州選手権の準々決勝でフランスはギリシャに敗れている。フランスに勝利したギリシャは調子の波に乗って優勝を遂げている。ワールドカップが終了してからこれまでにフランス代表は5試合戦っているが、そのうち4試合は欧州選手権予選で親善試合は8月のボスニア・ヘルツェゴビナ戦だけである。また、欧州選手権はイタリア、ウクライナなどの強豪国と、フェロー諸島、グルジアと言う弱小国というように力関係が極端であり、選手のテストをするには相応しくない。したがってこのギリシャ親善試合は中長期的な観点ではタレント発掘の貴重な機会である。

■初招集となるカリム・ベンゼマとゴンサロ・イグアイン

 11月9日、レイモン・ドメネク監督はギリシャ戦のメンバーを発表した。通常20人前後がメンバーとして招集されるが、今回は24人という通常より多いリストアップとなった。そしてその中には代表初招集となる選手が2人いた。まず1人は最近の本連載でしばしば紹介しているリヨンのカリム・ベンゼマであり、もう1人はアルゼンチンのリバープレートに所属しているゴンサロ・イグアインである。ベンゼマ、イグアインとも18歳、異例の抜擢であるが、当然の選出であると言う声も強い。
 ベンゼマについては今秋の本連載を読み返していただければわかるとおり、強豪リヨンでなみいる国内外の代表選手を押しのけてレギュラーの地位を確立しており、特にチャンピオンズリーグでの得点力についてはフランス国内だけではなく欧州レベルで注目を集めている選手である。

■アルゼンチン人の両親の間にフランスで生まれたイグアイン

 一方のイグアインは所属クラブがアルゼンチンのクラブというのがセンセーショナルである。フランス代表の選手が晩年に南米のクラブに移籍することはあっても、南米のクラブからフランス代表に入ったとなるとおそらく初めてのことではないだろうか。また、18歳で南米のクラブに所属していると言うことも読者の皆様は不思議に思われるであろう。実はイグアインはアルゼンチン人の両親の間に生まれた。父親のホルヘ・イグアインはバスク系のアルゼンチン人で、かつてブレストでプレーしていた。その時にブレストで生まれたのがゴンサロ・イグアインであり、フランス民法の出生地主義により、イグアインはフランス国籍を有している。イグアインは生後10か月の時に、家族とともにアルゼンチンに戻ることになり、以後これまでアルゼンチンで育ってきた。したがってフランス語を話すことはできない。フランス語を話すことができない選手の代表選出も史上初めてのことであろう。

■レイモン・ドメネク監督の誘いを断ったイグアイン

 しかし、サッカーの技術については南米だけではなく欧州までその名声は伝わっている。名門リバープレートの攻撃の中心ととなり、今季ニューウェルスから移籍してきたアリエル・オルテガを主役から追いやって堂々のレギュラーとなっている。本年10月8日の宿敵ボカ・ジュニアーズとの戦いで見せたプレーは秀逸であった。CKからゴール前の混戦となり背番号19は鮮やかなヒールキックで得点を決め、ファンを歓喜させたのである。すでにイングランドのリバプール、スペインのバルセロナ、レアル・マドリッドは獲得の意思を表明している。もちろん、レイモン・ドメネク監督の耳にもその活躍ぶりが入らないわけがない。イグアインは以前アルゼンチンのユース代表に選出された際も辞退しており、フランス代表入りへの制度的な問題はない。
 ところが、イグアイン側はこのフランス代表の招集に難色を示した。フランス生まれと言っても本人は全くフランスの記憶はない。幼少の頃からアルゼンチンの地でサッカーボールを追ってきた。さらに来年からはアルゼンチン代表は国内組で代表を組織するということからアルゼンチン代表入りも濃厚である。代表に選出された翌日、アルゼンチンのイグアイン家からフランスへファクスが送られてきた。残念なことに代表入りを辞退すると言う内容であった。(続く)

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