第703回 リトアニア、オーストリアと連戦(9) 19歳コンビのナスリ、ベンゼマ、見事な代表デビュー
■平均年齢21歳の中盤4人
フランス代表にとって貴重なテストの機会となったオーストリア戦で、レイモン・ドメネク監督は多くの若手選手を先発メンバーとして送り出した。
フランス代表のホームゲームは2月のアルゼンチンとの親善試合以来となる。このアルゼンチン戦はサッカーのフランス代表が国内で史上最多の観客を集める試合となったが、惜敗している。聖地スタッド・ド・フランスで2連敗は許されないが、果敢に若手を起用した。
■今世紀初の20歳未満の代表選手となったサミール・ナスリ
注目すべきは中盤である。前回の本連載でも紹介したが、リオ・アントニオ・マブーバ、ラッサナ・ディアラ、アブ・ディアビー、サミール・ナスリという4人のMFの代表歴は合計してもわずか4試合である。そしてこの4人の平均年齢は21歳であり、最年長は23歳のマブーバであり、最年少は19歳で代表デビューとなるナスリである。ナスリは久しぶりの20歳未満での代表デビューとなる。20歳未満で代表にデビューしたのは1998年4月22日のスウェーデン戦で19歳だったニコラ・アネルカ以来7年ぶりのことであり、ナスリは今世紀最初の20歳未満の代表選手である。
そのアネルカもいまや28歳、この試合が代表36試合目となる。アネルカはこの日の先発メンバーの中で年齢ではリリアン・テュラム(35歳)、グレゴリー・クーペ(34歳)に次いで3番目、代表歴ではテュラム(128試合目)に次いで2番目となってしまった。
マルセイユ出身でマルセイユに所属するナスリにとってこのポジションはマルセイユの生んだ大選手ジネディーヌ・ジダンのポジションである。ジダンの代表デビューは本連載第300回で紹介している通り1994年8月17日のチェコ戦であるが、衝撃的なものであった。当時所属するボルドーで行われた試合で0-2とリードされた後半途中から出場し、2得点をあげてドローに持ち込んでいる。そしてこのチェコ戦で忘れてはならないのが、ジダンだけではなく、オーストリア戦で主将を務めるテュラムも代表にデビューしていることである。ジダンとテュラムが10年以上フランス代表の屋台骨を支えたわけであるが、この日のフランス代表はまだボルドーのシャバン・デルマス競技場がパルク・レスキュールと呼ばれていたあの日を思い出させた。
■ナスリに続き19歳のカリム・ベンゼマも代表にデビュー
試合はフランスが支配する。ほとんどボールをキープするが得点には至らない。後半に入るところでドメネク監督は3人の選手を入れ替えた。まずCB2人を入れ替えた。3年ぶりの代表の試合出場となり、しっくりといかなかったメクセスに代わりエリック・アビダルを投入し、前半左サイドだったジュリアン・エスクーデを中央に配す。そしてテュラムを下げてウィリアム・ギャラスがエスクーデとコンビを組む。そしてシュートを再三打ちながらゴールネットを揺らすことのできなかったジブリル・シセに代わりカリム・ベンゼマを投入、ベンゼマはついに代表デビューとなる。
■ナスリ、ベンゼマで決勝点、新たな歴史の扉を開く
そのベンゼマがフィールドに立った8分後、ナスリがベンゼマにパスを出し、右サイドキックでゴールをあげる。この得点が決勝点となったが、ベンゼマも19歳であり、20歳未満で揃って代表デビューを果たしたナスリとベンゼマのコンビが得点を決めたのである。フランス代表で20歳未満でゴールを決めた選手は第二次世界大戦後7人おり、その中にはアネルカの名前もあるが、アネルカはデビュー2試合目であり、デビュー戦でのゴールとなると1981年のブルーノ・ベローヌ以来である。
また20歳未満の選手が複数同時に試合に出場したことも珍しいことである。1982年8月31日のポーランド戦のダニエル・ブラボーとマルク・フェレーリ以来のことであるが、この時、ブラボーは代表4試合目であった。20歳未満の代表デビューの選手が2人揃ったのは1977年2月23日の西ドイツ戦のパトリック・バティストンとベルナール・ゼニエ以来のことである。
そしてベンゼマが記録した初出場、初得点については第298回から第300回の本連載で紹介したことがあるが、昨年のジュリアン・フォーベールを含めてこれまで90人が記録している。そしてその90人の中にはナスリが目標とするジダンの名前も含まれている。得点もアシストも20歳未満の代表初出場というのはフランス代表の歴史で初めてのことである。
この日スタッド・ド・フランスに集まった観衆は68,403人、スタンドの上段には空席が目立ったが、フランス・サッカーの歴史の証人となったのである。(この項、終わり)