第704回 日系三世ガエル・カクタ、チェルシーへ移籍
■15歳の選手をめぐってイングランドのビッグクラブが争奪戦
前回までの本連載ではオーストリア戦でデビューした2人の19歳の選手、カリム・ベンゼマとサミール・ナスリの活躍を紹介した。ワールドカップで準優勝したとは言え、若手の台頭がいつの時代でも望まれる。そのベンゼマとナスリの印象的なデビューから半月たった4月中旬、また衝撃的なニュースが飛び込んできた。15歳の選手がチェルシー、トットナムホットスパーズなどの間で争奪戦が起こり、チェルシーと契約した。
■ランスの16歳以下のチームに所属するカクタ
その15歳の選手の名はガエル・カクタ、16歳以下のフランス代表に選出されている選手であるが、所属チームのランスでは16歳以下のチームに所属しているだけである。ランスをはじめとするフランスの一般的なチームの構造を紹介すると、まずプロフェッショナルのトップチームがあり、それに続き、アマチュアのチームがあり、3部に相当するナショナルリーグか、4部に相当するCFA(フランスアマチュア選手権)に所属しており、ランスの場合はCFAに所属している。そして年齢別のチームがあり、18歳以下、16歳以下となり、カクタは16歳以下のチームに所属している。すなわち、ランスの中でも上から4番目のチームに所属している選手がイングランドのビッグクラブに移籍するわけである。
■カクタに影響を与えたコンゴ人の叔父
カクタは1991年6月21日にリールで生まれているが、名前から分かるとおり、日系三世であり、日本人の祖父を持つ。カクタの祖父が日本からフランスに渡ってきた頃はまだ日本ではサッカーは盛んなスポーツではなかった。カクタに影響を与えたのがコンゴ人の叔父である。カクタの伯父はサッカー選手であり、リールのアマチュアチームに所属していた。カクタがまだ幼かった頃、伯父の出場する試合を見に来るように誘われたのがカクタがサッカー少年になったきっかけである。カクタはリールのリール・ムーランというチームに所属する。そしてカクタにとって生まれて初めての試合は衝撃的なものであった。相手はリール、叔父が所属し、そしてフランスリーグ初代のチャンピオンチームである。このリール相手に1-17と大敗を喫したのである。しかし、次の試合ではこの強豪相手に5-0と完勝したのである。叔父の指導を受けながらカクタは成長し、3年前に同じ北部の強豪チームであるランスに所属を変えたのである。ポジションはMF、目標とする選手はスティーブン・ジェラードである。
■16歳以下フランス代表で活躍、チェルシーへ
フランス代表で最年少のカテゴリーは16歳以下であり、昨年9月のアイルランドとの親善試合でカクタは代表入りする。ガンガンで行われた試合でデビューし、カクタはデビュー戦でゴールを決める。その後も代表での地位を不動のものとする。そして今月初めに国内で行われたモンテギュー国際大会に出場し、カクタは国際的に注目されるようになった。第35回を数える伝統のあるこの大会で、フランスはグループリーグでカメルーンとロシアに連勝し、準決勝に進出する。準決勝ではイングランドに敗れるが、3位決定戦でイタリアに勝利し、3位になっている。カクタは攻撃的なMFとして活躍する。この大会には日本も出場し、フランスとの対戦はなかったものの、日系人選手がいるということで日本でもカクタの存在は知られるようになったであろう。
そしてカクタはイングランドのビッグクラブからオファーを受け、チェルシーと契約するに至った。その移籍金は100万ユーロ、日本円にして1億6000万円といわれる。日本とコンゴの血を引き、フランスの地で生まれ育ち、サッカーの母国のクラブから熱い視線を受け、弱冠15歳でドーバー海峡を渡った。本連載でも何回か紹介しているが、カクタが所属していたランスのチームカラーは赤と黄色であるが、血と黄金というニックネームである。ランスは炭鉱地帯にあるが、赤は炭鉱事故で流された血を象徴し、黄色は炭鉱が生み出した富を意味している。カクタの体に流れるのは日本の血は、イングランドのビッグクラブでどのような富を生み出すのであろうか。カクタのイングランドでの血と黄金の物語に注目したい。(この項、終わり)