第733回 グアドループ、ゴールドカップで大活躍(2) ジョセリン・アングロマ、現役復帰
■タレントの宝庫、グアドループとマルティニック
読者の皆様もよくご存知の通り、現在のフランス代表選手のほとんどが、フランス本土以外の出身である。その中で一大勢力がこの北中米カリブ海地域である。カリブ海に浮かぶ島々にアフリカ大陸から移住してきた子孫がこのスポーツマンの宝庫の基礎となっている。
グアドループ出身あるいはグアドループをルーツに持つフランス代表クラスの選手を並べると、古くはマリウス・トレゾール、リュック・ソノール、ジョセリン・アングロマ、そして現在活躍中の選手としてはリリアン・テュラム、ティエリー・アンリ、シルバン・ビルトール、ルイ・サア、ミカエル・シルベストル、フィリップ・クリスタンバル、パスカル・シンボンダとこれだけでチームを編成することができるほどである。
一方、隣のマルティニックであるが、ニコラ・アネルカ、エリック・アビダルがこの島をルーツとする。さらにアンリはパリの郊外の出身であるが、父親はグアドループの出身であり、母親はマルティニック出身である。
■フランスのGKの歴史を変えた仏領ギアナ出身のベルナール・ラマ
さらにカリブ海に面する仏領ギアナも数多くの名選手を輩出している。フランスが伝統的に人材難といわれていたGKにおいてその歴史を変えたのがベルナール・ラマであった。ラマ以降、GKでフランスが他国より見劣りすることはなくなった。現在の代表選手としてはフローラン・マルーダが仏領ギアナ出身であり、代表入りこそならないが、ボルドーに所属し来季はスコットランドのグラスゴー・レンジャースに加わることになるジャン・クロード・ダルシュビルもこの仏領ギアナの生まれである。
■グアドループ代表のメンバー構成
このように多くのフランス代表クラスを輩出している人材の宝庫であるが、ある程度有望な選手はフランス本国のクラブに移籍し、フランス代表のユニフォームを着ることになる。しかし、このグアドループ代表にはグアドループに残っている選手だけで構成されているわけではない。フランス本土の強豪クラブで活躍している選手も含まれている。今季は2部に降格してしまったが、ナントのFWのオーレリアン・カプーもグアドループ代表に名を連ねている。それ以外の選手は2部以下の本土のチームが約半分を占め、残りの半分はグアドループのクラブの選手であるが、フランス以外のオランダやイングランドのクラブに所属している選手もいる。
■元フランス代表のジョセリン・アングロマ、生まれ故郷のために現役復帰
さらに特筆すべきは41歳の選手が1人エントリーしている。本連載の読者の方ならば皆さんよくご存知のアングロまである。本文の冒頭にアングロマはこの島出身でフランス代表として活躍した選手である。ある国で代表チームの選手となった選手は他の国では代表の選手となることができないはずであるが、このゴールドカップはFIFAの主管ではなくCONCACAFの主管の大会である。すなわち、これがワールドカップ予選の場合であるならばアングロマは出場することはできないが、FIFAの主催大会ではないため、アングロマは出場することが可能となったのである。
アングロマは1965年生まれであり13歳の時にグアドループ有数のクラブであるエトワール・モルヌ・ア・ローのメンバーとなり、才能を見抜かれた20歳の時にフランス本土に渡りレンヌでプロとしてデビューする。その後、リール、パリサンジェルマンを経て、1991年に全盛期のマルセイユへ移籍する。そして1993年のチャンピオンズリーグ優勝の立役者の一員となるが、クラブが八百長事件で壊滅状態となり、アングロマもイタリアのトリノへと移籍する。そしてその後はフランスに戻ることはなくインテル・ミラノを経由してスペインのバレンシアに移籍し、このスペインの中堅チームはアングロマの加入とともに大ブレイクし、チャンピオンズリーグの決勝に進出するにいたった。代表チームでも1992年と1996年の欧州選手権のメンバーとなっている。
そして2002年に現役を引退したが、このゴールドカップにはフランス代表経験者も出場できると知って昨年から現役復帰、古巣のエトワール・モルヌ・ア・ローのユニフォームを着ることになったのである。現役時代は右サイドバックであったが、豊富なキャリアを評価され、ゲームメーカーとして文字通りチームの大黒柱となる。このアングロマ率いるグアドループはゴールドカップで旋風を巻き起こしたのである。(続く)