第820回 強豪スペインと親善試合(2) フランスは赤、スペインは黄色のユニフォームで登場

■通常とは異なる色のユニフォームで登場した両チーム

 今年初めてのフランス代表の試合となったスペイン戦であるが、試合前に両国のサッカーファンを驚かせることがあった。それが両チームのユニフォームの色である。通常であれば、ホームチームのスペインがファースト、ビジターのフランスが相手国とは異なる色のユニフォームを着用する。スペインの国旗は赤と黄色であるが、国旗の中で一番上の色の赤をファーストユニフォーム、そして中央の黄色をセカンドユニフォームとしている。ちなみに国旗の中で一番上の色を採用すると言うのはドイツも同様であり、黒、黄色、赤の中で最も黒を重視したユニフォームとなっている。このスペイン-フランス戦も順当であれば、スペインが赤、フランスが青という双方のファーストユニフォームを着用することにまったく問題はなかった。ところが両チームはファーストユニフォームを着用せず、スペインは黄色、フランスは赤と言う色のユニフォームで試合に臨んだのである。

■ラグビーのワールドカップがユニフォームに与えた影響

 これは、昨年のラグビーのワールドカップがサッカー界にも影響を与えたと言えよう。ラグビーも基本的にはファーストジャージーを双方が着用し、似たような色になった場合だけ、どちらかがセカンドジャージーを着用するか、双方ともセカンドジャージーを着用すると言う慣例であった。例えば、フランスは基本的に青のファーストジャージーで、スコットランド(紺)やイタリア(青)と対戦するときだけ、白いジャージーを着用することがあった。またオールブラックスというニックネームのニュージーランド代表は伝統国のスコットランドと対戦するときだけは黒ではなく白のジャージーを着用していた。ところが、マーケティング上の観点から、昨年のワールドカップでは積極的にセカンドジャージーを着用することにした。例えば、準々決勝のフランスとニュージーランドの試合では、フランスは青であったが、ニュージーランドはグレーのジャージーを着用し、積極的にセカンドジャージーの存在をアピールしてきた。

■発足以来、1960年まではセカンドユニフォームは赤

 このスペイン-フランス戦で両チームがセカンドユニフォームを着用したのもその影響があると思われる。本連載の読者の皆様はフランスのセカンドユニフォームの色は白であると思われているが、1905年のフランス代表の誕生以来1960年までの長い間、相手が青系統のユニフォームの時は、セカンドユニフォームには白ではなく赤を着用してきた。例えば、相手がイタリア(青)、スコットランド(紺)、ユーゴスラビア(青)の場合、赤のユニフォーム、白のパンツ、青のストッキングといういでたちで三色旗を保ちつつ、相手と峻別してきた。

■テレビ中継の開始とともに白いセカンドユニフォームを着用

 赤いセカンドユニフォームを使用してきたフランスが、1960年に白のセカンドユニフォームを使うようになったのはマーケティング上の理由がある。1960年代以降、サッカーの試合はテレビで中継されるようになった。フランスが赤、イタリアが青というユニフォームを着用した場合、競技場で観戦する数万人のファンは両チームを峻別可能である。しかし、当時は白黒テレビが中心であり、白黒テレビで観戦している何百万あるいは何千万と言うファンは同じような色に見え、見分けがつかなくなったのである。従ってフランスはセカンドユニフォームの色を赤から白にし、現在に至っているというわけである。テレビ中継がない公式戦以外の練習試合などでは赤いユニフォームを使っていることもある。フランスではテレビの普及がなかなか進展せず、いまだにDVDを見るためにドイツのデュッセルドルフまで行くようなお国柄である。もちろんこれは1980年代後半に日本製のテレビに対する厳しい輸入制限をエディット・クレッソンが推進したことも影響しているであろう。ようやく両チームが色つきのユニフォームを着用しても見分けがつくカラーテレビが国全体に普及してきたことから、赤いユニフォームで試合をする運びとなった。
 これまで赤いユニフォームでの戦績は5勝5分12敗とよい成績は残していない。そして赤いユニフォームでの最後の試合は1960年の欧州選手権準決勝のユーゴスラビア戦である。この試合はフランスが終盤まで4-2とリードしながら、終盤に立て続けに3点を奪われ、4-5と逆転を喫し、西側陣営の雄としてのプライドを引き裂かれた試合である。時代はそれからちょうど48年、欧州選手権イヤーの始動の試合で赤いユニフォームを着て王座奪回を狙うのである。(続く)

このページのTOPへ