第832回 宿敵イングランドを迎える(5) ティエリー・ジラルディに捧げる勝利
■スペイン戦と4人が入れ替わったイングランド戦の先発メンバー
3月26日のスタッド・ド・フランスでのイングランド戦の先発メンバーはGFにグレゴリー・クーペ、DFは中央にウィリアム・ギャラスとリリアン・テュラム、左サイドがエリック・アビダル、右サイドにフランソワ・クレルク、守備的なMFは左にジェレミー・トゥーララン、右にクロード・マケレレ、攻撃的なMFは左サイドにフローラン・マルーダ、右サイドにフランク・リベリー、そして2トップは左にニコラ・アネルカ、右にダビッド・トレゼゲという陣容である。
これを2月のスペイン戦と比べてみると大幅な変更がある。守備陣については右サイドのDFがビリー・サニョルからクレルク、守備的なMFがラッサナ・ディアラとパトリック・ビエイラからトゥーラランとマケレレに代わっている。攻撃陣に関しては守備的なMFに移ったトゥーラランの代わりに攻撃的な右サイドのMFの位置にリベリー、そしてFWのうちの1人がティエリー・アンリからトレゼゲに代わっている。結局4人が入れ替わったわけであるが、サニョル、アンリは招集前の負傷でメンバー入りせず、ビエイラとラッサナ・ディアラは招集後に負傷して欠場している。逆に新たに先発メンバーとなった4人のうちリベリーは負傷明けであるが、トレゼゲは2006年のワールドカップ終了後はあまり代表に呼ばれず、構想外であったかと思われていたが、昨年9月の欧州選手権以来の復帰となる。カリム・ベンゼマの負傷による離脱もトレゼゲにチャンスを与える形となったのである。
このイングランド戦のフランスのメンバーはイングランドほどではないにせよ、代表のキャリアを十分に積んだメンバーばかりである。スイスとオーストリアでの欧州選手権に出場できる23人の枠をめぐる戦いはもう1つの戦いである。
■芝の状態も改善、10周年にして初めての1部リーグの試合
フランス代表にとっては本拠地スタッド・ド・フランスでの試合は昨年11月16日のモロッコとの親善試合以来のこととなる。スタッド・ド・フランスの開業は今をさかのぼること10年前の1998年のことであり、開業10周年となる今年初めてのフランス代表の試合である。この冬場のスタッド・ド・フランスは芝生の状態が悪いことで有名である。これは天候だけの問題ではなく、ラグビーシーズンたけなわであり、6か国対抗の試合に加え、最近のラグビーブームに対応し、ラグビーのフランスリーグの試合も行われている。スタッド・ド・フランスの主役がラグビーに取って代わられた感があるが、芝を全面的に改修するとともに、ついに開業10周年で初めてサッカーの1部リーグの試合を行った。3月1日に行われたリール-リヨン戦は77,840人の観衆を集めたが、イングランド戦を控えて芝の状態を確認するためのテストと言う意味もあったのである。
■試合の前日に心不全で亡くなったティエリー・ジラルディ
イングランドはこれまでの対戦成績を23勝5分8敗と大きく勝ち越しているが、最後の勝利は11年前の1997年のワールドカップのプレ大会のことである。この日の出場選手で、モンペリエでの試合にも出場していた選手はデビッド・ベッカムとテュラムだけである。
試合の前日にこの日テレビで実況中継を務める予定だったティエリー・ジラルディが49歳の若さで心不全で急死した。シアンスポ出身であり、自らはラグビーの経験しかないが、サッカーの世界でもフランスを代表する存在になったジラルディの急死はフランスのスポーツジャーナリズムにとっては大きな痛手である。フランス代表選手は喪章を巻き、キックオフ前には黙祷が捧げられた。
■リベリーのPKでフランス勝利
試合は赤いユニフォームを着たイングランドがボールを支配するが、11年ぶりの勝利に向けた意欲が空回りしたのか、試合の要所を押さえたのはフランスである。31分にはペナルティエリア内にボールを持ち込んだアネルカに対しイングランドのGKデビッド・ジェームズがファウルを犯し、PKが与えられる。このPKをリベリーが冷静に決めてフランスが先制点、その後もフランスはボールを支配されつつも、イングランドゴールをたびたび襲う。結果的にはこのリベリーのPKがこの試合唯一の得点となり、フランスが1-0で勝利し、欧州選手権の出場選手を決定する前で最後の試合を白星で飾った。
前日亡くなったジラルディの生前最後のサッカーの試合の中継は、3月4日のチャンピオンズリーグのマンチェスター・ユナイテッド-リヨン戦であり、イングランドのクラブの前にフランスのクラブが屈した。この日の勝利を一番喜んでいるのはジラルディであろう。(この項、終わり)