第1135回 2010年チャンピオンズトロフィー

■観客動員の新記録を樹立したモントリオールでの開催

 サッカーのワールドカップとラグビーの南半球遠征、本連載で紹介してきたが、両方とも全くいいところがなく、国民を失望させた。テニスのローラン・ギャロスも相変わらず他国のクレーのスペシャリストたちの後塵を拝するという状況は変わらない。
 このような中でフランス人はツール・ド・フランスとバカンスの7月を迎えたのである。しかし、ツール・ド・フランスやバカンスは年にわずか1か月の非日常の世界である。8月に始まり、偶数年は7月、奇数年は5月に終わるサッカーはフランス人にとっては日常である。そのサッカーは7月はシーズンオフであり、シーズンの間に行われるイベントや、シーズン開幕を控えたイベントがある。
 そのうちの1つがリーグ開幕直前に行われるチャンピオンズトロフィーである。前年度のリーグチャンピオンとフランスカップの勝者で争われるこのタイトルは本連載第988回と第989回で紹介したとおり、昨年は初めての国外開催となった。カナダのモントリオールでボルドーとギャンガンの間で争われた試合には3万4000人の観衆が集まり、チャンピオンズトロフィーとして最多の観客動員を記録した。

■年の大会はチュニジア最大の競技場で開催

 主催者は次年度以降も国外での開催を決定、昨年に続いてバカンス先でチャンピオンズトロフィーをということで今年もカナダでバカンスを、と考えていた富裕層は少なくなかったが、今年の開催地は地中海を挟んだチュニジアのラデスで行われた。今年はマルセイユ(リーグチャンピオン)とパリサンジェルマン(フランスカップ勝者)という夢のカードである。チュニジア最大の競技場であるラデスの11月7日競技場で試合は行われた。本連載第103回で紹介したとおり、この競技場は2001年に地中海競技大会を開催するために造られたものであるが、スタッド・ド・フランスをモデルとしている。

■チュニジア人が多数住むパリとマルセイユ

 また、チュニジアはフランスから独立した国であり、フランスとの関係は英国から独立したカナダよりもはるかに濃いものを持っている。さらに今年の出場チームはパリ、マルセイユとチュニジアからの移民を多く抱える都市のチームである。富裕層であるならば、大西洋を渡ってカナダへ行くというバカンスの過ごし方も選択できるが、一般のチュニジアからの移民の場合、バカンスをとっても帰省するのが精一杯であろう。
 この日、ラデスの11月7日競技場に集まった観衆は実に5万5000人である。もちろんマルセイユ、パリサンジェルマンというフランスの人気チームを一目見ようと集まってきたファンがほとんどであろうが、中にはチュニジアから仕事を求めてパリやマルセイユに渡り、定職を得て住みついてしまい、パリサンジェルマンやマルセイユのファンになったという数も少なくはないであろう。マグレブ諸国からの移民が多いフランスの大都市のサッカーチームは彼らの存在をクラブの運営上無視はできない。チュニジア人選手を獲得すれば、チュニジア出身の移民を観客として動員できるのである。

■PK戦で勝利したマルセイユは初挑戦で初タイトル

 さて、肝心の試合のほうであるが、「フランスのクラシコ」といわれるこのカードとしては激しさのあまり見られないソフトな試合になった。やはりシーズン前の試合であり、中立地で行われているということも影響している。当たりも激しくなく、ファンにとっては見応えのない試合となった。試合は白いユニフォームのマルセイユが支配し、赤いユニフォームのパリサンジェルマンが守るという展開になった。90分を終えて両チーム無得点であり、トロフィーの行方はPK戦に委ねられることになった。
 両チームのGKは新旧のフランス代表選手である。マルセイユはワールドカップでは出番がなかったスティーブ・マンダンダ、パリサンジェルマンは代表チームでは控えが続いたグレゴリー・クーペ、5人が終わったところで4-4のタイスコアで6人目の勝負となる。マルセイユはエデュアール・シセが成功、パリサンジェルマンはルドビック・ジュリが失敗し、このタイトル初挑戦のマルセイユがタイトルを獲得する。
 5万5000人はチャンピオンズトロフィーの観客動員の新記録、そしてこの11月7日競技場は2002年のワールドカップで惨敗したフランス代表が再起第1戦を行った競技場である。フランスサッカーの再起のきっかけとしてほしいものである。(この項、終わり)

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