第1179回 イングランドと親善試合 (4) 因縁のイングランド戦、イングランドは大幅に若手を起用
■聖地ウェンブリーで唯一の勝利の立役者、ニコラ・アネルカ
エリック・アビダルを呼び戻し、聖地ウェンブリーに乗り込んだフランス代表、ウェンブリーでの試合は1999年2月10日以来のことである。この試合ではアーセナルに移籍したばかりのニコラ・アネルカが2ゴールを決め、フランスが2-0と勝利している。実はこれがウェンブリーにおけるフランスの唯一の勝利である。この試合に出場した選手の中でまだ代表クラスで活躍しているのが2得点をあげ、歴史的勝利の立役者となったアネルカであるが、アネルカは南アフリカのワールドカップでの暴言により、実質的に代表から遠ざけられた形になっている。
■ローラン・ブラン監督の引退試合となった2000年の親善試合
ウェンブリーでの初めての勝利以降、両チームは2004年の欧州選手権で1回、親善試合で2回対戦している。ポルトガルのリスボンでの欧州選手権はイングランドに先制されたがロスタイムにジネディーヌ・ジダンが2得点をあげるという大逆転劇でフランスは勝利している。また、親善試合は2試合ともスタッド・ド・フランスで行われ、2000年は1-1で引き分け、2008年は1-0でフランスが勝利している。2000年の親善試合は9月に行われ、欧州選手権で優勝したフランスの凱旋試合になったが、この試合は1998年のワールドカップ、2000年の欧州選手権の優勝に大きく貢献したディディエ・デシャンとローラン・ブランの引退試合となり、2人は先発メンバーとしてスタッド・ド・フランスのピッチでラ・マルセイエーズを歌い、57分に万雷の拍手の中でベンチに下がったのである。
ブラン監督にとってフランス代表の選手としての最後の相手がこのイングランドであり、唯一の勝利をあげた時の立役者が出場停止になっているという何とも因縁のある試合になった。
■欧州選手権初優勝に向けタレント発掘するイングランド
フランスのメンバーはこれまで紹介してきたとおりであるが、欧州選手権予選で順調なスタートを切ったイングランドは地元でのフランス戦に何人かの若手を起用した。ファビオ・カペッロ監督率いるイングランドはこのフランス戦に向け23人のメンバーを発表する。23人のメンバーのほぼ半数の11人が25歳以下という若い陣容である。
その中にこれまで代表での試合に出場したことのないメンバーが4人、1試合しか出場したことのない選手が3人というフランスにとって未知の選手が多く含まれる陣容である。しかもこれらの中にはメンバーには招集されるが、ベンチやスタンドに控えているという控えのGKはおらず、すべてフィールドプレーヤーである。このあたりも「欧州のワールドカップ優勝国で唯一欧州選手権で優勝したことがない」というサッカーの母国らしからぬイングランドの今回の欧州選手権にかける意気込みが感じられる。
■28歳で初代表、2部リーグから選出されたジェイ・ボスロイド
そのフランスにとって未知の選手であるが、代表の試合に出場したことがないのはマンチェスター・ユナイテッドのクリス・スモーリング(DF、20歳)、サンダーランドのジョーダン・ヘンダーソン(MF、20歳)、ニューカッスルのアンディ・キャロル(FW、20歳)、カーディフのジェイ・ボスロイド(FW、28歳)の4人である。また、代表出場1試合のメンバーはアーセナルのキラン・ギブス(DF、21歳)、ボルトンのガリー・ケイヒル(DF、24歳)、アストン・ビラのスティーブン・ウォーノック(DF、28歳)である。
これらの選手の多くは20歳あるいは21歳の若手選手である。例外は28歳のボスロイドとウォーノックである。ウォーノックは2年前に代表にデビューし、今回のワールドカップのメンバーにも選ばれたが、アシュレイ・コールの控えであり出場機会に恵まれなかった。
特筆すべきはボスロイドであり、所属チームもプレミアリーグのチームではない。サッカーよりもラグビーが有名なカーディフはイングランドではなくウェールズにあるが、イングランドのリーグに越境して加盟しており、プレミアリーグではなく2部に相当するフットボールリーグに所属するチームである。イングランド代表にイングランドの2部のクラブの選手が選ばれることも珍しければ、28歳で初めて代表に招集されるのも珍しいであろう。それだけカペッロ監督はタレントの発掘に力を入れていると言えよう。(続く)