第1265回 2011年女子ワールドカップ(3) 期待が高まる女子代表チーム

 3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、救援活動、復旧活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■マルセイユ、パリサンジェルマンに次ぐ3つ目の欧州王者となったリヨン

 今回で6回目を迎えた女子ワールドカップはドイツで開催される。前々回の本連載で紹介している通り、これまでの優勝国はドイツと米国が2回ずつ、そしてスウェーデンが1回と、女子サッカーの強国が栄冠に輝いている。フランスはこれが2回目の出場であるが、かつてないほどの期待を集めている。
 その根拠はワールドカップ直前に行われた女子チャンピオンズリーグでのリヨンの優勝である。フランス勢としてUEFA主催のクラブレベルの大会では1993年のチャンピオンズリーグのマルセイユ、1996年のカップウィナーズカップでのパリサンジェルマンにつぐ3つ目のタイトルとなったが、「チャンピオンズリーグ」というタイトルは何よりも価値があり、1993年のマルセイユがタイトルを剥奪された歴史を考えれば、初めて欧州の真の頂点に立ったのが今年のリヨンである。

■代表もクラブも特定の国が頂点を占める女子サッカー

 そして女子チャンピオンズリーグの過去9回の優勝チームはドイツのクラブが6回、スウェーデンのクラブが2回、そしてイングランドのクラブが1回となっており、ワールドカップでの代表チームとチャンピオンズリーグでのクラブチームの国別の勢力図がほぼ一致している。男子も現在のワールドカップチャンピオンがスペインであり、チャンピオンズリーグの優勝チームがスペインのバルセロナであるが、ワールドカップでスペインは初優勝であり、長い歴史を振り返れば、男子と女子には大きな違いであろう。したがって、今回のフランスには期待できそうである。

■主将は37歳、代表161キャップのサンドリーヌ・スーベイラン

 ドイツ入りしたメンバーは20人、そのうち半数の10人がリヨンの選手であり、残りの10人も全員フランス国内のクラブチームに所属している。最年長は37歳で主将を務めるサンドリーヌ・スーベイラン、実に代表出場歴161試合を誇り、守備的MFを1人でこなす選手である。女子のサッカーは得点が入りやすく、過去5回のワールドカップでの1試合当たりの平均総得点は4点である。昨年の男子のワールドカップの1試合当たりの総得点が2.27であるから男子の倍くらいのゴールシーンを見ることができる。守備陣の強化、攻撃陣の更なる得点力のアップ、いずれかあるいは両方が勝利のためのカギである。
 そして20人の選手のうち、30歳以上は主将のスーベイラン以外は2人だけであり、25歳以下の選手が主流である。特に2003年にドイツで行われた19歳以下の欧州選手権の優勝メンバーが5人残っており、チームを支えている。

■アマチュア選手をアスリート集団へ変革させたブルーノ・ビニ監督

 女子サッカーを職業としている選手はフランスにはいない。代表選手の半数は協会と契約を結んでいるが、フランス国内で協会と契約を結んでいる女子選手はわずか43人であり、ほとんどは体育の教員、クラブのインストラクター、学生といった身分である。したがってクラブでの練習時間も決して長くはない。
 このような環境でチームを率い、予選で驚異的な強さを誇るチームにまで仕立て上げたのが監督のブルーノ・ビニである。ビニ監督は2007年1月に代表監督に就任し、それまでは余暇にサッカーをする集団を、国を代表するアスリートの集団へと変革し、選手、協会、ファンからの信任も厚い。
 今年の男子のフランスサッカーは古豪リールがリーグもカップも制覇している。そしてリール市庁舎での歓喜の祝勝会の主役は選手たちであったが、もう1人の主役はリールの女性市長で来年の大統領選の有力候補であるマルティーヌ・オブリーであった。女性市長の都市のクラブが初めて二冠を達成し、直前のチャンピオンズリーグでもフランス勢として初優勝をリヨンが果たした今年のワールドカップはフランスにこれまでにない高い期待が集まっているのである。
 また、決して恵まれない環境の中でワールドカップで活躍することは女性の地位向上に大きく貢献するはずである。(続く)

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