第1937回 本年最終戦のイングランド戦 (1) テロの直後、イングランド戦を決行
4年前の3月11日の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、東北地方だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■イングランド協会から開催の申し入れ
フランスの11月の親善試合は13日にホームでドイツ戦、17日にアウエーでイングランド戦、欧州選手権前年を締めくくるにふさわしい手ごたえのあるチームと戦う予定であった。ところが、13日に起こったパリ同時多発テロによってロンドンのウェンブリー競技場での試合は開催が危ぶまれた。しかし、イングランドサッカー協会は開催を決行の意思を14日に表し、決定をフランスサッカー協会に委ねる。フランス側はこの申し出を受け入れ、開催の運びとなった。
■フランスの選手、観客を迎え入れたイングランド
フランスのイレブンの中にはいとこをこの事件で亡くしたラッサナ・ディアラ、妹が最大の被害者を出したバタクラン劇場にいたアントワン・グリエズマンがいる。そしてドイツ戦の終了後に事件を知らされたディディエ・デシャン監督自身もショックのあまり試合後の会見をキャンセルしている。そのように精神的に痛手を受けたフランスのメンバーであるが、1名も離脱することなくロンドン入りした。
フランスの選手、サポーターを迎えるウェンブリー競技場は青白赤のトリコロールでライトアップし、場内にはフランスの精神を表す「自由・平等・博愛」の文字がフランス語で表示されている。また、イングランドのファンからの呼びかけにより、フランス人以外もフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌うことができるように大型ビジョンに歌詞が映し出される。
このように多くの人々の努力によって開催に至ったわけであるが、試合決行を提案したイングランド協会の、パリ同時多発テロで犠牲になった人に敬意と連帯を示すため、という精神が多くの人々を動かした。
■近年はフランスに勝てないイングランド
イングランドは、サッカーの母国として、そして外交大国としてフランスを万全の態勢で迎えた。フランスとイングランドの対戦は3年ぶりのことであり、2012年の欧州選手権のグループリーグでウクライナのドネツクで対戦している。この時は1-1の引き分けに終わっている。フランスがウェンブリー競技場で試合を行うのは5年ぶり、ちょうど5年前の2010年11月17日に親善試合で対戦している。この時の対戦は本連載の第1176回から第1181回で紹介した通り、フランスが2-1と勝利している。2000年代に入ってからフランスはイングランドに負け知らず、2000年9月のスタッド・ド・フランスでの親善試合(現監督のデシャンと前監督のローラン・ブランの引退試合)で引き分けて以来、2004年のポルトガル・リスボンでの欧州選手権で勝利、2008年にはスタッド・ド・フランスでの親善試合で勝利ということで、フランスの3勝2分である。また、1000年代最後の対戦は1999年にウェンブリーで行われた親善試合であり、この時はニコラ・アネルカの活躍でフランスが2-0と勝利、これはウェンブリーでのフランスの初勝利であった。
結局イングランドが最後にフランスに勝利したのは1998年のワールドカップフランス大会のプレ大会であるフランストーナメント、1997年6月にモンペリエで行われた試合で1-0と勝利したのが最後である。また、イングランドがホームでフランスに勝利したのは今から23年前の1992年2月にウェンブリーで行われた親善試合までさかのぼらなくてはならない。
■20年近く国際大会のベスト4から遠ざかっているイングランド
イングランドは昨年のワールドカップはウルグアイ、イタリア、コスタリカと同じ「死のグループ」に入り、イタリア、ウルグアイに連敗し、最終戦を待たずしてグループリーグで敗退、そして最終戦のコスタリカ戦もスコアレスドローと全くいいところがなかった。2012年の欧州選手権もグループリーグはフランスを押さえて首位で突破したものの、決勝トーナメントでは初戦の準々決勝でイタリアにPK戦で敗れベスト8に終わっている。
1996年の地元開催の欧州選手権で準決勝に進出したのを最後にベスト8の壁を破れないでいるのがイングランドの力である。そろそろ国際大会で上位に入りたい。そのためにも分の悪いフランス戦で勝利し、来年に向けて弾みをつけたいところである。(続く)