第2254回 ワールドカップを目指し、発進(8) 1年ぶりの代表招集となったアントニー・マルシャル

 6年前の東日本大震災、昨年の平成28年熊本地震などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。

■たびたび戦禍に見舞われたケルン、1974年のワールドカップは開催せず

 ドイツとの親善試合が行われるケルンは大聖堂で知られるドイツ第4の都市である。この都市の歴史を語るに当たって戦争の歴史は避けて通れない。ケルンはたびたび戦火に巻き込まれてきた。地理的にはドイツの西部に位置しフランスに占領された歴史もあるが、20世紀には第一次と第二次の二度にわたる世界大戦で大きな被害を受けた。第一次世界大戦後の都市の復興計画の中で完成したのが今回の試合が行われるラインエネルギー競技場である。第二次世界大戦でケルンの町は空襲を受け、壊滅状態になったが、郊外にあったこの競技場は戦火を免れ、1948年からは1FCケルンが使用し始める。1974年に開催されたワールドカップでは開催に立候補し、開催地として受け入れられながらも、競技場の改装が財政的な問題により、開催に間に合わず、ワールドカップ開催は実現しなかった。ケルンが初めて国際大会の開催地となったのは1988年の欧州選手権である。

■2006年ワールドカップでトーゴに勝利、ドイツとはケルンで初対戦

 しかし、この1988年大会にはフランスは出場せず、フランスがこのケルンの地で初めての試合を行ったのが、2006年ワールドカップのグループリーグのトーゴ戦である。フランスはグループリーグの最初の2試合をスイス、韓国と引き分け、3位で最終戦を迎える。前半は無得点であったが後半にパトリック・ビエイラとティエリー・アンリがゴールを決めて、2位に入ったフランスはその後決勝まで進むこととなる。しかし、フランスがドイツとケルンで対戦するのはこれが最初である。

■ドイツ戦に臨む先発メンバー、主将はラファエル・バラン

 その初めてのケルンでのドイツ戦に臨むフランスの先発メンバーであるが、GKはスティーブ・マンダンダ、DFは右からクリストフ・ジャレ、ラファエル・バラン、サミュエル・ウムティティ、ルカ・ディーニュ、MFは中盤の底にアドリアン・ラビオ、高い位置の右にはコランタン・トリッソ、左にブレーズ・マツイディ、FWは右にキリアン・ムバッペ、左にアントニー・マルシャル、中央にアレクサンドル・ラカゼットという布陣となる。
 4日前のウェールズ戦の先発メンバーではなかったのは、バラン、ディーニュ、ラビオ、ラカゼット、マルシャルの6人である。この中で注目は主将に任命されたバラン、そして今回の連戦が久しぶりの代表戦となったマルシャルである。24歳の若手選手というイメージのあるバランであるが、これまでに代表では39試合に出場しており、今回の先発メンバーの中ではウェールズ戦で主将を務めた30歳で61試合に出場したマツイディに次ぐ代表出場数を誇る。

■同時多発テロの起こったドイツ戦でアシストを記録したアントニー・マルシャル

 マルシャルはウェールズ戦では終盤に交代出場し、昨年10月のオランダ戦以来、1年1か月ぶりに代表の試合に出場した。先発となるとその前月の昨年9月のベラルーシ戦以来14か月ぶりのこととなる。
 そしてこの11月のドイツ戦と言えば2年前の2015年11月13日の試合を忘れてはならない。パリ同時多発テロの標的となった悲劇は永遠にフランスいや世界のサッカーファンの心に深い傷跡として残っている。しかし、試合そのものは関係者の努力により無事に行われた。この試合にマルシャルは先発出場し、前半のアディショナルタイムの47分にオリビエ・ジルーの先制点をアシストしている。この活躍がその後のマルシャルを代表に定着させることとなったが、昨年の10月以来は外れてしまっている。しかし、今季、所属するイングランドのマンチェスター・ユナイテッドでは好調であり、6得点6アシストを記録している。マルシャルを入れた代わりにメンバーから外れたのがアントワン・グリエズマンである。8月以降のすべての試合で先発メンバーであったグリエズマンの代わりにマルシャルがどれだけ活躍できるかが1つのカギとなる。
 2年前の悲劇を悼み、試合前には黙祷が捧げられ、キックオフされたのである。(続く)

このページのTOPへ