第2865回 25年ぶりのオリンピック(9) 日本だけではなく商業主義にも敗れたフランス
平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■札幌でメキシコが引き分け以下の場合、広がる可能性
グループリーグ最終戦、フランスは日本に27分に先制を許してしまった。フランスは日本に2点差で勝利できなかった場合でも決勝トーナメントへの可能性は残されている。ここまで1勝1敗のメキシコ、2敗の南アフリカの両チームを最終的に上回る成績となれば2位以内となる。メキシコも1勝1敗であるが、得失点差は+2である。今大会のレギュレーションは勝ち点で並んだ場合は総得失点差、総得点の順に判定されることになる。したがって最終戦でメキシコが引き分けた場合、フランスは1点差でもよいから勝利すれば2位以内に入る。また、メキシコが南アフリカに敗れた場合は両チームとも1勝2敗となることから、フランスは日本と引き分ければよい。なお、この時にフランスが日本に敗れても3チームが1勝2敗で並ぶが、この場合は得失点差でメキシコと南アフリカの少なくともいずれか一方がフランスを得失点差で上回ってしまう。すなわち、札幌で開催されている試合で南アフリカが勝利するか引き分けた場合のみ、2点差勝利以外での可能性がある。ところが、フランスの願いとは反対にメキシコが先制点をあげている。
■酒井宏樹に追加点を許し、頼みのテジ・サバニエが負傷交代
なんとか逆転したいフランスは失点の直後にはこの日初先発となったティモテー・ペンベレとアレクシス・ベカ・ベカが右サイドでボールをつないで攻め込み、CKを獲得する。テジ・サバニエはアンドレ・ピエール・ジニャックの頭に合わせようとしたが、日本のGKの谷晁生がパンチングでしのいだ。その後フランスは日本になすすべもなくやすやすと得点を許し続けた。
34分には久保が起点となったパスを前線の上田綺世が受けて、シュートする。このシュートもポール・ベルナルドーニが弾いてしまう。そこに右サイドを駆け上がってきた酒井宏樹が右足でシュート、フランスは2点のビハインドとなってしまう。ストッパーのアントニー・カーチが完全に出遅れてしまった。
さらにその直後にフランスのベンチに衝撃が走る。サバニエが負傷し、試合継続が不可能となり、ピッチを後にする。セットプレーでキッカーとなり、チームを牽引してきたオーバーエイジの代わりにはエンゾ・ルフェが入る。ルフェは7月の追加招集のメンバーであるが、7月16日の韓国戦で抜擢され、第1戦のメキシコ戦でも先発している。所属するロリアンでは背番号10を付けレギュラーの座を確保し、2部での優勝に貢献したが、まだ1部での試合の経験はない。
■後半も2失点、0-4と大敗を喫す
前半は日本に2点のリードを許し、後半に入る。日本は決勝トーナメントを見据えて、エースの久保をハーフタイムでベンチに下げる。フランスはオーバーエイジのフローリアン・トーバンからジニャックというホットラインだけが頼りの攻撃となる。一方の日本は様々な選手がフランスのゴールを襲う。特筆すべきは旗手怜央であろう。DF登録でありながら、この日はMFとして左サイドから攻撃を組み立て、ゴールに迫った。56分には酒井に代わって入った橋岡大樹のクロスをフランスのDF陣を振り切ってヘディングでシュートした。
その旗手は70分には後半から入ってきた三好康児にパスし、ペナルティスポット付近からシュート、これが決まってフランスは3点目の失点となる。さらに後半のアディショナルタイムには日本の途中交代選手たちに決定的な4点目を奪われる。相馬勇紀からのクロスを前田大然が決め、フランスは0-4と大敗を喫したのである。
■商業主義に敗れたオリンピックのサッカー
これまで紹介してきたとおり、フランスの選手のレベルは年齢制限があったとはいえ、代表と言えるものではない。予選を突破した際に、東京での本大会で活躍してJリーグのクラブをはじめとするビッグクラブへの移籍を夢見た選手もいたであろう。しかし、彼らはオリンピックチームに入ることなく、今回のオリンピックチームのメンバーはこれが代表と名の付く最後の試合になるかもしれない。
欧州代表の4チームのうち、ベストメンバーを組めたのはスペインだけ、ドイツもルーマニアも予選の時とは違うメンバーで戦い、グループリーグで敗退した。今回のフランスなどの欧州勢の敗退はオリンピックがプロサッカークラブの商業主義に敗れた証であろう。そしてそれは皮肉なことにオリンピック本来の姿なのである。(この項、終わり)