第2970回 緊急特集 ウクライナに平和を(1) ロシアの大富豪がオーナーのモナコ
平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■ロシアのウクライナ侵攻、一日も早い平和を
ロシアがウクライナに侵攻したのは2月24日、それから10日ほど経過したが、ロシアは停戦することなく、多くのウクライナ市民が命を落とし、逃亡している。国際社会はロシアに対する厳しい制裁を課しているが、ロシアがその制裁にひるむ気配はなく、その回答はウクライナに対する攻勢の強化である。悲しい日々が続くが、一日も早い平和が訪れることを願うばかりである。今回と次回は「グランドスラムを目指すフランス」を中断し、ロシアのウクライナ侵攻をサッカーの観点から論じてみたい。
■かつてはソ連の自動車のラーダが胸スポンサーだったモナコ
フランスのサッカー界で今回の侵攻で影響を受けると思われているチームがモナコであろう。モナコはフランスではなくモナコ公国にあるチームであるが、フランスリーグに所属し、オーナーはロシアの富豪のドミトリー・リボロフレフ氏である。
モナコ王室の後ろ盾でチームを運営してきたモナコは、冷戦時代からソ連企業との関係があり、ソ連の自動車のラーダのロゴがスポンサーとしてグレース・ケリーのデザインしたユニフォームの胸を飾っていた。ラーダはソ連のアフトバス社が生産する自動車であり、国外向けのブランドである。ウラジミール・プーチン大統領お気に入りの乗用車である。アフトバス社は経営不振によって現在はルノー・日産の傘下に入っているが、会長を務めているのはKGB出身で、カルロス・ゴーン被告の信頼が厚く、プーチンの側近として今回の経済制裁の対象となったセルゲイ・チェメゾフ氏である。
現在、モナコの胸スポンサーはラーダ(LADA)ではなく、その後はフェドコム(FEDCOM)が25年にわたり使われていた(今季からETORO)。フェドコム社もロシアの企業であり、この胸スポンサーの変化がモナコの経営陣の変化と関係がある。
■2部降格時にオーナーになったロシア人のドミトリー・リボロフレフ氏
数々の栄光を残したモナコも2011年には2部に降格し苦戦していた。そこに登場したのがリボロフレフ氏である。リボロフレフ氏は、医学部を卒業し、医師としてのキャリアをスタートしたが、当時のソ連の医師の収入は家族を養っていくには少なく、リボロフレフ氏はビジネスの世界に飛び込む。ちょうどこれが冷戦終結、ソ連崩壊と同じタイミングであり、化学肥料会社のウラルカリに投資して巨万の富を築く。投資範囲は多岐に及び、サッカー界も例外ではない、ベラルーシのディナモ・ミンスク、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドに投資し、2011年12月にモナコの株式の3分の2を獲得、モナコは大型補強をして1部に復帰、現在に至っている。このリボロフレフ氏のモナコへの投資には伏線がある。
それが1990年代末からモナコの胸スポンサーとなったフェドコム社の存在である。ウクライナは小麦だけではなく化学肥料も西欧に輸出し、この物流を担っていたのがフェドコム社であった。フェドコム社の創立は1995年であるが、創立直後から昨季まで25年間にわたってモナコの胸スポンサーとなり、このたびレガシーパートナーとして認定された。このフェドコム社の存在がリボロフレフ氏のモナコへの投資につながったのである。
■ソ連、ロシア、ウクライナとゆかりのあるモナコ
また、モナコは総合型スポーツクラブであり、サッカー以外にバスケットボールのチームも有している。かつては3部に所属していたチームであったが、2013年にウクライナ人でフェドコムの社長のセリー・ディアデチコ氏が会長となってから成績は急上昇、現在は欧州レベルで覇権を争うチームに成長した。なお現在のバスケットボール部門の会長はロシア人のアレクセイ・フェドリーセフ氏、フェドコム社はサッカーのチャンピオンズリーグに相当するバスケットボールのユーロリーグのオフィシャルパートナーにもなっている。
モナコにはロシアのスポーツベッティング企業であるリーガ・ストホークもスポンサーに名を連ねており、旧ソ連の流れをくむ企業とのつながりが強い。
今回のロシアに対する制裁によって、イングランドのチェルシーのようにオーナーが退いたケースもあるが、モナコの場合はそれには当てはまらないようである。リボロフレフ氏自身がプーチン大統領とは距離を置いていること、そしてリボロフレフ氏は2010年からモナコに居住している。バスケットボール部門のフェドリーセフ氏は今回の侵攻を受けて、自分はもうロシア人ではないと宣言しているからである。
モナコの場合、クラブの歴史にソ連、ロシア、ウクライナが登場する。ロシアがウクライナに侵攻することは悲しいことである。(続く)