第3217回 タイでの開催が中止となったチャンピオンズトロフィー
平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■シーズン開幕前週に行われるチャンピンズトロフィー
リーグ戦が終わり、シーズン終了直後に行われた欧州選手権予選のジブラルタル、ギリシャとの連戦を連続完封勝利で飾り、サッカー界はシーズンオフを迎え、選手たちはバカンスを迎えることになる。来季のリーグ開幕は8月12日、それに向けて移籍市場も活性化し、多くの選手や監督の移籍が連日、国内外を騒がせている。また、7月になるとチームも再始動し、プレシーズンマッチを重ねてシーズン開幕に照準を合わせる。数々のプレシーズンマッチの中で最も注目を集めるのが、開幕前週に行われるチャンピオンズトロフィーである。
■これまでに国外では8か国で行われたチャンピオンズトロフィー
本連載でも毎年のように取り上げてきたが、前年度のリーグ優勝チームとフランスカップの勝者が戦い、リーグ開幕を盛り上げる。日本の皆様であれば富士フィルムスーパーカップの熱狂を肌で感じていらっしゃるであろう。このチャンピオンズトロフィーは1990年代の後半に始まり、当初は避暑地の地方都市で開催されてきたが、2000年代の後半にはリヨンやボルドーなど地方の大都市の大スタジアムで開催され、観客動員も増え、2009年には大きな旅に出る。カナダのモントリオールのオリンピックスタジアムでの開催、3万4000人という当時としては史上最多の観客動員を記録する。翌年にはチュニジアで5万7000人を集める。新型コロナウイルスの感染拡大により海外渡航が困難となった2020年は国内のランスのフェリックス・ボラール競技場で無観客で行ったが、米国、中国、アフリカ、欧州など国外で行われ、過去2年間はイスラエルのテルアビブで開催され、これまでにこのトロフィーが訪問した外国は8か国となる。
■サッカー熱の高いタイのバンコクで初開催
今年も国外の開催ということで、4月にフランスプロサッカーリーグは8月5日にタイのバンコクで開催すると決定した。実現すれば、2014年の中国の北京以来2回目のアジアでの開催となる。イングランドのレスターが経営難に陥った際にタイの大手免税店のオーナーであったビチャイ・スリバッダナプラバ氏がオーナーとなって経営を立て直し、岡崎慎司などを補強しプレミアリーグで優勝しており、サッカーに対する熱のある国である。収容人員が5万人を超えるラジャマンガラ競技場で実施される予定であり、史上2番目の観客動員を記録するのではないかと商業面での成功が期待された。また、この時点ではフランスリーグもフランスカップも優勝チームが決まっていなかったが、リーグ首位のパリサンジェルマンは昨年の日本ツアーで獲得したアジアのファン層をベースにビジネスを展開するチャンスととらえ、リーグ優勝へのラストスパートへのモチベーションとなったに違いない。
■環境問題面で長距離移動を伴う試合に批判、8月のバンコク開催はキャンセル
ただし、このように両チームの本拠地以外での開催はファンからは従来から不満があったことは事実である。さらに、近年は環境問題の観点から、国内チーム同士の試合に長距離の移動を伴う国外での開催に対して批判的な声も強くなってきた。これに対してフランスプロサッカーリーグは森林団体との提携などにより環境保護に取り組み、移動の際に二酸化炭素排出を抑えることも行ってきた。その中でフランスから9000キロも離れた場所でチャンピオンズトロフィーを行っていいものか、という声が上がるのは当然だろう。
そして5月19日、タイのプロモーターのフレッシュ・エアー・フェスティバル社が、開催の中止を申し出る。その理由は明らかになっていないが、商業的な背景だけではなく、環境問題に対する欧米の問題意識の高まりも影響しているであろう。フランスカップで優勝し、この大会に実質的に初出場となるトゥールーズはもとより、リーグ優勝を目前にし、2年連続の日本ツアーを企画していたパリサンジェルマンにとっては、思わぬ誤算となった。
フランスプロサッカーリーグはプロモーターに対し、違約金を請求するとともに、今年のチャンピオンズトロフィーを来年1月に他国で開催することを発表したのである。(この項、終わり)