第160回 1月のフランス熱狂、3つのスポーツイベント(6) 連覇ならず、惜しくも3位
■リスボンに舞台を移した準決勝のドイツ戦
強豪スウェーデンを破り世界選手権準決勝に進出した男子ハンドボールチーム。1次リーグと2次リーグはポルトガルの地方都市で行われてきたが、準決勝以降は首都リスボンでの戦いとなる。準決勝だけではなく8位以上の順位決定戦も行われ、世界の頂点を目指す戦いと来年のアテネを目指す戦いが2月1日と2日の2日間繰り広げられた。
さて、フランスの準決勝の相手はドイツ。イラクに対する米国の強硬な姿勢、日本の後方支援に対して両国は激しく抗議し、国際社会の中では歩調をあわせているが、世界選手権準決勝のコートとなれば話は別である。ロシア、スウェーデンという強豪を破って準決勝に進出したフランスであるが、ドイツはそれらに勝るとも劣らぬ強敵である。
■フランス代表選手の多くがドイツのクラブに所属
ドイツはフランスが優勝した前回の世界選手権こそ8位に終わったが、昨年スウェーデンで行われた欧州選手権では準優勝している。1月の上旬にはメッスで大会前に親善試合を行いフランスが25-24と辛勝しているが、両国の過去の対戦成績はドイツが15勝4分13敗と勝ち越している。
そして代表チームの戦績よりむしろクラブチームのレベルが高いことがドイツの特徴であろう。今回のフランス代表のうち4人がドイツのクラブに所属している。ギュンマースバッハのフランソワ・グザビエ・ウレ、エッセンのパトリック・カザル、マグデブルクのジョエル・アバティ、そして日本の皆様に一番有名なのが高原直泰と同じハンブルグのベルトラン・ジルであろう。また、過去にドイツのクラブに所属した選手は8人にのぼり、チームの8割の選手がドイツのクラブに所属した経験があるのである。
■TF1の生中継により期待が高まるが、惜敗
この準決勝にフランス国民は釘付けとなった。準決勝の行われる日にはフランスリーグの第25節が行われたが、サッカー中継がキラーコンテンツであるTF1は急遽この準決勝を生中継することになった。昨年のワールドカップではフランスの早期敗退により大損害を受けたTF1であるが、ファンのサッカー離れに敏感に反応した結果の判断であろう。
テレビの前の多くのフランス国民だけではなく、首都リスボンでも注目を集め、8000人の大観衆の中で試合は始まった。緊張感あふれる中、序盤はフランスが僅差のリードを保ち、その後シーソーゲームとなる。20分過ぎからドイツがゴールを連取し、25分には11-7と前半最大の得点差となる。残り5分でフランスが3連続得点し、前半はドイツが11-7と1点リード。後半に入るとフランスが前半終了直前の勢いを持続させ、後半が半分経過した45分には16-12とフランスがリードを広げる。ところがそれまで20分間でわずか1得点のドイツのゲルマン魂が目を覚ます。3分間に4得点を上げ、同点に追いつき、残り10分強。この最後の10分はドイツがリードを広げ、フランスがその差を縮める、という試合展開が続く。この試合最後の得点はフランスが上げるものの、フランスは追いつくことができず、22-23と惜敗する。ここでフランス連覇の道は途絶えてしまったのである。
■5大会連続のメダルを獲得、サッカーをしのぐ競技に
その翌日には決勝、3位決定戦などが行われた。もう1つの準決勝はクロアチアが延長戦の末、39-37とスペインを下して8年ぶりの決勝進出を果たす。3位決定戦でフランスはスペインを27-22と下して3位を確保する。決勝戦はクロアチアが34-31とドイツに競り勝ち、悲願の初優勝を果たす。
フランスの3位という成績は前回王者として残念であるが、近年のフランスの成績は注目すべきである。オリンピックこそ1992年のバルセロナ・オリンピックで3位に入って以来、アトランタで4位、シドニーで6位とその後メダルを逸しているが、世界選手権に関しては1993年大会で準優勝、1995年大会で優勝、1997年大会は3位、2001年大会優勝、そして今大会3位と5大会連続してメダルを獲得するという偉業を成し遂げている。
このポルトガルでの男子ハンドボールの活躍中、完全にフランスのサッカーシーンは色あせてしまった感がある。フランスのサッカーはセネガルやデンマークにだけ負けたのではない。サッカー一辺倒だったテレビ局のTF1がハンドボールに乗り換える兆しがあるように、他のスポーツに負けたのである。この傾向はラグビーの六か国対抗が始まればさらに顕著となるであろう。(この項、終わり)