第261回 2003ラグビーワールドカップ、シドニーの涙雨

■六か国対抗で惜敗したアイルランドに大勝、準決勝進出

 本連載の第249回から第251回にかけて、豪州で開催されているラグビーワールドカップの序盤戦におけるフランスの戦いについて紹介したが、その続編を楽しみにされている読者の方々も少なくないようである。
 フランスは予選プール最終戦の米国戦は控えメンバーで戦って41-14と大勝、予選プール全勝で決勝トーナメントの1回戦では予選プールAで2位のアイルランドと対戦する。アイルランドは今春の六か国対抗ではフランスに15-12と競り勝ち、世界ランキングでは3位に位置している。今大会でも予選プールの最終戦でトップの座をかけた豪州との直接対決で16-17と1点差に迫る試合を行っており、フランスにとって格上の相手である。ところがメルボルンでフランスの攻撃陣は爆発する。3分にパスカル・リバンと同郷のオーリヤック出身のオリビエ・マーニュが先制トライをあげると得点ラッシュ。前半だけで3トライ、3ゴール、そして2ペナルティゴールと27得点をあげ、一方のアイルランドは無得点。後半に入ってもフランスの攻撃はとどまらず、47分には37-0と大差がつく。ようやく終盤にアイルランドも意地を見せたが、結局フランスは4トライ、4ゴール、5ペナルティゴールと得点を重ね43-14と大勝する。

■イングランドとの今年の対戦成績は1勝2敗

 アイルランドを倒し、準決勝以降の舞台であるシドニーのスタジアム・オーストラリアでフランスを待っていたのは北半球の雄、イングランドである。今春の六か国対抗ではグランドスラムを記録したイングランドにフランスは17-25と負けている。本大会前最後の親善試合をホームアンドアウエーで行い、8月30日にマルセイユで若手主体のイングランドに17-16と勝ったものの、9月6日には聖地トウィッケナムでは主力をそろえた相手に14-45と歴史的大敗を喫している。
 そして大方の予想通り、北半球の最有力チームとしてイングランドは準決勝に駒を進める。フランスもアイルランドを予想外の大差で破り、第2回大会準々決勝、第3回大会3位決定戦に次ぐワールドカップ史上3回目の対戦となった。過去4度の大会で決勝に進出したことがある北半球勢はこの2チームだけであることを考えるならば、北半球のクラシコであると言えよう。

■イングランドの若きエース、ジョニー・ウィルキンソンの活躍

 両チームを迎えるシドニーは初夏と思えない寒さと雨というコンディション。天候だけを考えればトウィッケナムやスタッド・ド・フランスで試合が行われているようである。半年前にタイムスリップしたような天候であったが、試合の方は10数年前に後戻りしたような内容になった。まずは9分、イングランドの誇る24歳のスタンドオフ、ジョニー・ウィルキンソンがフランス第三列のマークをかいくぐり、ドロップゴールを決めて3点先制。これに対してフランスはその直後にフランカーのセルジュ・ベッツェンが名誉挽回とばかりにトライを決め、フランスのスタンドオフのフレデリック・ミシャラクがゴールを決めて7-3と逆転する。しかしこれがこの試合唯一のフランスの得点シーンとなってしまった。33分にウィルキンソンがペナルティゴールを決め、前半終了間際にドロップゴールを決めて逆転、さらにペナルティを決めて12-7と点差をつけて折り返す。

■唯一のトライも実らず、イングランドに完敗、3位決定戦に

 欧州ではデビッド・ベッカムをしのぐ人気のウィルキンソンは後半も3ペナルティゴール、1ドロップゴールと活躍する。一方、フランスのミシャラクは元来スクラムハーフの選手で21歳になったばかり。ところがスクラムハーフにはベテランでワールドカップ4大会連続出場のファビアン・ガルティエがいるため、スタンドオフとして起用され、これが大成功。フランスの若きエースとして今大会も活躍していたが、イングランド戦ではプレイスキックにミスが目立ち、イングランドとの点差を縮めることができなかった。結局、7-24という大差でフランスは敗れ、シドニーの涙雨となる。トライ数こそフランスが上回ったが試合内容はイングランドのワンサイドゲーム。ゲームを支配し、その結果としての得点の手段はトライにこだわらず、キックで得点を重ねていく、というのは1980年代の五か国大綱で各国が見せた典型的なパターンである。さらに、ウィルキンソンの左右の足から繰り出されるドロップゴールはイングランドの攻撃の幅を広げた。
 フランスにとってはシンビンによる一時退場もあり、前回の準決勝でミラクルを起こしたニュージーランドとの3位決定戦に回ることになったのである。(この項、終わり)

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