第779回 ラグビーワールドカップを振り返る

■南アフリカ、2回目の優勝

 9月から10月にかけての本連載ではラグビーのワールドカップについて紹介する機会が多かった。ヒット数、読者の皆様からの問い合わせも通常よりも多く、フランスだけではなく日本でもラグビーの人気が高くなっていることを認識した次第である。
 本連載はフランスが準決勝でイングランドに敗れたところまでしか紹介しなかったが、その後の試合結果については、もう1つの準決勝は南アフリカがアルゼンチンを下して決勝に進出、決勝はグループAの再現となったが、南アフリカが15-6でイングランドを下して12年ぶり2回目の優勝を果たした。

■アルゼンチンに敗れて4位にとどまったフランス

 フランスはアルゼンチンと3位の座を争うことになった。3位決定戦は決勝戦の前日に行われ、フランス代表にとって10年ぶりとなるパルク・デ・プランスでの試合となったが、開幕戦の雪辱を果たすことはできず、10-34と大敗を喫し、前回大会に続いて最終成績は4位になった。準決勝のイングランド戦での敗退でチームは分解状態になり、3位決定戦は一時は3-27と大差を付けられる展開で開幕戦の12-17よりも差をつけられての敗戦となった。
 フランス代表の戦績は4勝3敗と数字だけ見ると凡庸であり、北半球のライバルのイングランドに1敗、苦手のアルゼンチンに2敗し、特に最終戦になる3位決定戦では、これまでのアルゼンチン戦のワースト記録である18点差(1988年6月のテストマッチ)を更新する24点差という惨敗で終盤は残念であったが、準々決勝でニュージーランドを下したことだけで十分にお釣りは来るだろう。

■フランス国内を大いに盛り上げた大会

 今回のラグビーのワールドカップと9年前のサッカーのワールドカップを比較するといくつか特徴的な違いが存在する。まず、結果的に優勝したサッカーの場合は大会序盤は盛り上がりに欠け、勝ち進むに連れて国民が認知するようになってきた。一方、今回のラグビーの場合は大会前から盛り上がり、開幕戦でアルゼンチンに敗れ、準決勝、3位決定戦で敗れても終始コンスタントな盛り上がりを見せ、決勝戦の観衆80,430人はフランスが出場した準決勝の観衆の80,283人を上回った。観客層も女性や子供が多く、見るスポーツとしての地位をさらに強固にした。
 サッカーのワールドカップと比べて顕著だったのは国外からの観客動員である。出場国のうち欧州勢が多かったこともあるが、多くのファンがフランスを訪れた。スポーツ紙のレキップはこの大会期間中は別刷りを編成するとともに、英語版のページも作成し、フランスを訪問した外国人ファンに対応した。
 そして国内のファンに対しては各都市でパブリックビューイングを開催した。9年前のワールドカップでは数か所だったパブリックビューイングは今大会では開催都市のスタジアムにとどまらず、主要都市の中心地で行われ、多くのファンが街中で観戦した。
 このパブリックビューイングの普及とともに、注目すべきはテレビ放映技術である。本連載第492回で2005年11月12日のドイツでの親善試合でスタッド・ド・フランスの屋根をロープで結び、モーター付きの小型カメラを走らせて、空中から撮影することを紹介した。その放映技術のゴールは今回のラグビーのワールドカップであり、その新技術が結実することになった。
 大会終盤にはニコラ・サルコジ大統領の年金政策に反対する大規模なゼネストが挙行されたが、ワールドカップ開催日にはストは回避された。そしてサルコジ大統領もフランスの最終戦となる3位決定戦、そして決勝戦と連日スタンドに顔を見せた。すなわち今回のワールドカップはフランスの内政も動かしたのである。

■特筆すべき伝統国以外の活躍、観衆を魅了した日本

 このようにラグビーは見るスポーツとして成功しているが、国際的に競技人口は少なく、また伝統国重視という文化のある競技である。競技の普及と伝統国の地位の維持という相反する命題の中で揺れ動いており、次回の大会は参加国を絞る動きもある。その中で開催国のフランスをはじめ北半球のチームをことごとく退けて3位になったアルゼンチン、ウェールズを破って決勝トーナメントに進出したフィジーの活躍は特筆すべきである。
 また、グループリーグで敗退したが、トンガ、グルジア、日本、ポルトガルなどは印象的なゲームを見せ、観衆を魅了した。今から4年後の大会が楽しみであるが、それまでに世界のラグビーの勢力図がどのように変化しているかという興味は尽きない。(この項、終わり)

このページのTOPへ