第1187回 2010年デビスカップ決勝 (6) 決勝はベオグラードアリーナのハードコート
■室内球技の欧州観客動員記録を有するベオグラードアリーナ
決勝の相手がセルビアになったことにより、決勝の舞台はフランスではなくセルビアになった。セルビアは1回戦では米国を3勝2敗で下し、準々決勝はクロアチアを4勝1敗で下し、準決勝は前回の本連載で紹介したとおりチェコに3勝2敗で逆転勝ちして決勝に進出した。このうち1回戦の米国戦と準決勝のチェコ戦はホームゲームであり、いずれもベオグラードのベオグラードアリーナで戦っている。br /> ベオグラードアリーナは2004年に完成した収容人員2万2000人という欧州最大級の屋内競技場である。欧州において室内におけるバスケットボール、バレーボールの最多観客動員はいずれもこのベオグラードアリーナで記録されたものであり、バスケットボールに関しては2009年3月5日のパルチザン・ベオグラード-パナシナイコス(ギリシャ)戦の22,567人、バレーボールについては同年7月26日のワールドリーグのセルビア-ブラジル戦の22,680人という記録が残っている。
■2009年夏季ユニバシアードの開閉会式を開催
ただ、これらの数字はバレーボールのVリーグやバスケットボールのbjリーグの大観衆に慣れている日本の皆様はそれほど驚かないであろう。日本の皆様にとって印象深いのは2009年の夏季ユニバシアードであろう。ベオグラードを舞台にして行われた大会で日本は金メダルを20個獲得した。これはロシア(27)、中国(22)、韓国(21)に次ぐ4番目の順位であり、金メダルから銅メダルまでのメダル全体の獲得数は73にのぼり、首位のロシアとわずか3個の差の2位である。2009年の日本のスポーツシーンにとって最も輝かしい瞬間であり、日本では永遠に語り継がれる大会であろう。そしてこのユニバシアードの開閉会式は屋外ではなくベオグラードアリーナの中で開催されたのである。
■クレーコートで戦いたいセルビア陣営
もちろん、セルビア陣営は決勝進出決定直後にベオグラードアリーナで決勝戦を行うことを決定する。そしてセルビアの選手たちはインドアでありながら、ハードコートではなく赤土を敷き詰めたクレーコートでの戦いを希望する。この理由はセルビア人選手が比較的クレーコートを得意としているのに対し、フランス人選手が球足の速いハードコートを得意にしているからである。特にフランスのエースのジョー・ウィルフリード・ツォンガはフランス人らしくなく、ハードコートが得意でクレーコートを苦手としている。昨年のジャパンオープンを含むツアー5勝はすべてハードコートで得たものであり、四大大会の成績を見てもクレーコートのローランギャロスではベスト16が最高成績であり、四大大会では地元のタイトルが最も成績が良くない。
また、セルビア勢は1回戦の米国戦はクレーをベオグラードアリーナに敷き詰めて戦って勝利をあげている。準決勝のチェコ戦は同じベオグラードアリーナで戦ったがハードコートを準備している。これはチェコの選手がクレーコートを得意とし、1回戦のベルギー戦ではホームのベルギーがクレーコートを準備したにもかかわらず、チェコがベルギーを4-1と下しているという実績を基にセルビアがクレーコートを回避したのである。
■決勝前週にシルク・ドゥ・ソレイユ、クレーコートを断念してハードコートに
しかし、フランス戦はもちろんクレーコートで戦いたいのがセルビア陣営である。ところが、ここで難題が発覚した。会場となるベオグラードアリーナは決勝の行われる12月3日から5日までは他のイベントが入っていないが、大会規定によって決勝戦の開催される月曜日の朝、すなわち11月29日の朝から練習が開始されることになっている。ところが、ベオグラードアリーナでは11月24日から28日までシルク・ドゥ・ソレイユの公演が入っており、28日の夜の公演が終了してから、翌朝までにクレーコートを準備する時間はない。また、ベオグラードアリーナ以外の場所でクレーコートを準備することも考えられたが、初めての決勝となるセルビアにとってベオグラードアリーナ以外のコートは考えられず、ハードコートでフランスを迎え撃つことになったのである。(続く)