第1223回 2011年デビスカップ開幕 (2) 新ヒーロー、ジェレミー・シャルディの誕生
■空港の格納庫に設けられたクレーコート
負傷者続出の中で、真剣勝負のデビスカップでは初登場となるジェレミー・シャルディがフランスチームの先鋒となる。相手はオーストリアのナンバー1プレーヤーのユルゲン・メルツァーと対戦する。
ホームチームとなるオーストリアは、このフランスとの戦いのためにインドアのクレーコートをウィーン空港の航空機の第3格納庫に準備した。メルツァーは昨年のローラン・ギャロスでは準決勝に進出し、初優勝したスペインのラファエル・ナダルに敗れているが、その直後のクレーコートのハンブルクオープンでも準優勝している。そして現在のフランスがクレーコートを苦手としていることからクレーコートを準備したのである。
しかし、オーストリアが空港内にクレーコートとスタンドを準備し始めてから、シャルディの出場が決まる。世界ランキングは低いが、シャルディはピレネー山脈のふもとのポー出身であり、クレーコートを得意としている。これまで四大大会本戦に13回出場しているが、勝ち越しているのはクレーコートのローラン・ギャロスだけである。
■ジェレミー・シャルディ、オーストリアのエースに完勝
シャルディとメルツァーの戦いがいよいよ始まった。シャルディはサービスがさえ、一方のメルツァーはミスが目立つ。航空機の格納庫という異様な舞台の中、地元ファンのため息が続く。シャルディは第1セットを7-5と先取する。そしてメルツァーは第2セットに入っても立ち直らず、第2セットもシャルディが6-4と連取し、地元オーストリアのファンは母国のヒーローがフランスの無名選手にリードされることが信じられない。シャルディの勢い、メルツァーのもたつきは第3セットも続き、シャルディが7-5で制し、2時間23分の戦いはシャルディ―のストレート勝ちと意外な結果に終わった。
そしてこのシャルディの勝利で勢いづいたフランスは第2試合で世界ランキング30位のジル・シモンが登場、世界ランキング206位のステファン・クーベックと対戦する。実力の差に加え、シャルディがフランスチームにもたらしたものは大きかった。第1セットは6-0と完璧にシモンがゲームを支配する。第2セットも6-2、第3セットも6-3とわずか1時間38分の戦いでフランスは王手をかけたのである。
初日のシングルスを終わってフランスは2勝、しかも1セットも落としていない。フランスのファンは誰しもが安心して週末を迎えた。
■得意のダブルスで敗れ、流れが変わる
2日目のダブルスが流れを変えた。昨年のデビスカップでフランスはダブルスで負け知らずの4戦全勝であった。準決勝、決勝ではミカエル・ロドラとアルノー・クレマンがペアを組んだが、クレマンが負傷しているため、昨年の1回戦と準々決勝でペアを組み、いずれも3-1で勝利したジュリアン・ベネトーとロドラが土曜日のコートに立つ。オーストリアはエースのメルツァーとダブルスのスペシャリストのオリビエ・マラチが登場する。フランスペアは第1セットで2ゲームを先取したが、その後崩れ、4-6と初めてセットを奪われる。第2セットはフランスが6-3と奪って追いついたが、第3セットは3-6、第4セットは4-6と落とし、ダブルスで敗れたのである。
そして最終日、第1試合はシモンとメルツァーの戦いである。メルツァーはツアーよりもデビスカップにかける意気込みが強く、その意地を見せる。第1セットはタイブレイクにもつれ込んだが、メルツァーが競り勝つ。第2セット、第3セットとシモンが奪い、王手をかける。しかしここから地元のエースが力を発揮する。第4セット、第5セットと連取し、メルツァーが勝利、2勝2敗となって、勝負の行方は最後のシングルスにゆだねられたのである。
■シャルディが2勝をあげる見事な活躍でフランスが勝利
フランスはシャルディ、オーストリアは選手を交代し、世界ランキング138位のマルティン・フィッシャーを起用してきた。第1セットは勢いに乗るオーストリアのフィッシャーがとる。しかし、シャルディは自信を持っていた。第2セットのタイブレイクに競り勝つと、第3セット、第4セットとも6-3で連取し、シャルディが勝利する。
オーストリアに対し3-2というスコアは辛勝に見えるが、シャルディという新勢力をフランスは得たのである。(この項、終わり)