第2294回 崖っぷちのラグビー代表(8) 6年ぶりに復帰したリオネル・ボークシス
1998年2月20日、「サッカークリック」の「フランス・サッカー実存主義」でJ.P.モアンは連載を始めました。今日でちょうど20年になりました。「サッカークリック」で92回、「スポーツナビ」で40回、そしてこの「フランス・サッカー幻想交響曲」で2294回、全部で2426回の連載を続けてこられたのは読者の皆様のおかげです。引き続きご愛読のほどよろしくお願いいたします。
■主将のギレーム・ギラドの驚異的なタックル数
初陣でアイルランドに13-15と逆転負けを喫したフランス、昨年の夏以来これでテストマッチは1引き分けをはさみ6連敗となった。フランスが6か国対抗の初戦のホームゲームで敗退するのは5か国対抗時代であった1975年のウェールズ戦以来実に43年ぶりのことである。この時はガレス・エドワード、JPRウィリアムズなどのメンバーをそろえ、秋に訪日した黄金期のウェールズが相手であった。
しかし、試合は守勢のフランスがよく耐え、アイルランドをノートライに抑え込んだ。特筆すべきは主将のギレーム・ギラドである。フッカーというポジションながら、アイルランド戦でのタックル数は31である。日本の皆様であれば、タックルというと昨年6月のアイルランド戦でのトンプソンルークの27というタックル数をご存じであろう。ギラドの31というタックル数は3年前のウェールズのルーク・チャータリスと並び2010年以降のテストマッチの最多記録である。さらにフッカーに限ればこの間の最多記録は21であり、いかにギラドのタックルが多いかがわかるであろう。
■ドロップゴールを決めたジョナサン・セクストン、負傷者の出たフランスのハーフ団
この試合で称賛されるべきは最後の逆転のドロップゴールを決めたアイルランドの至宝、ジョナサン・セクストンである。1点差であり、ペナルティゴールもしくはドロップゴールで逆転という場面、アドバンテージが出ていない状況で、決して簡単ではない40メートルのドロップゴールを決めた技量には感服するばかりである。
一方、フランスのハーフ団は悲劇が襲った。この試合で終盤に交代出場したスクラムハーフのアントワン・デュポンは好プレーでこの試合唯一のトライに貢献したが、膝を負傷し、出場時間10分でピッチを去り、今季の残り試合の出場が危ぶまれる。また、19歳のスタンドオフとして注目を集めたマチュー・・ジャリベールも前半の30分で負傷しグラウンドを後にしている。また、慣れないナンバーエイトとして出場したケビン・グルドンも全治1か月の負傷をしていた。
■20歳のバティスト・クイユー、32歳68キャップのルイ・ピカモールを招集
この3人を負傷で失ったジャック・ブルネル監督は、敗戦の翌日に3人の選手を招集した。スクラムハーフには代表未経験のバティスト・クイユーを招集する。リヨン生まれで現在もリヨンに所属している20歳の選手である。スタンドオフとナンバーエイトには驚きの人選となった。ナンバーエイトはベテランのルイ・ピカモールを選出した。すでに代表キャップ数は68を数える32歳、キャップ数も年齢もチームで最多となる。昨年の日本戦を最後に代表から離れるのではないかという見方もあったが、代表に戻ってきた。
■6年ぶりに代表に復帰したリオネル・ボークシス
そしてスタンドオフにはリオネル・ボークシスを招集した。ピカモールと同じ32歳であるが、読者の皆様には遠い記憶しか残っていないのではないだろうか。それもそのはず、これまでに代表キャップ数は20を数えるが、最後に代表戦に出場したのは2012年3月、実に6年間のブランクである。これまでに6年間のブランクがあったケースはピエール・アルバジャデジョ(1954年から1960年)、ヤン・ドレーニュ(1997年から2003年)のケースがある。しかし、ボークシスは所属するリヨンでは好調であり、今季12試合に出場して重ねた得点は135、これはリーグ内では4番目の数字である。さらにキッカーを務めているが、成功率も91%であり、これもまたリーグ4位である。同じくスタンドオフを務めるカミーユ・ロペスが負傷により戦列を離れていることからボークシスに6年ぶりの声がかかったが、同じポジションの31歳のフランソワ・トラン・デュックを選択しなかった理由は今季の数字からも明白である。
ボークシスのこれまでの最後の代表戦は2012年3月17日のカーディフでのウェールズ戦であるが、この時は敗れている。ボークシスの最後の勝利は同じ年の2月26日のエジンバラでのスコットランド戦、ドロップゴールも決めている。そしてボークシスが復帰して最初に迎える試合は同じエジンバラでのスコットランド戦なのである。(続く)