第2297回 崖っぷちのラグビー代表(11) スコットランドの警察から取り調べを受けた選手たち

 1998年2月20日、「サッカークリック」の「フランス・サッカー実存主義」でJ.P.モアンは連載を始めました。去る2月20日で20年になりました。「サッカークリック」で92回、「スポーツナビ」で40回、そしてこの「フランス・サッカー幻想交響曲」で2297回、全部で2429回の連載を続けてこられたのは読者の皆様のおかげです。引き続きご愛読のほどよろしくお願いいたします。

■離陸前にスコットランドの警察の取り調べを受け、フランス帰国が遅れる

 アイルランド、スコットランドと2試合連続して試合の終盤にドロップゴール、ペナルティゴールで逆転を許して僅差で敗れたフランスは、スコットランドから帰国した2月12日の月曜日にはイタリア戦に向けてのメンバーを発表するはずであった。しかし、エジンバラから選手、スタッフがオルリー空港に帰国するその日、異変に気が付いた。
 まず、帰国便の到着が2時間遅れたことである。今年のパリは久しぶりの大雪に見舞われたが、天候が理由ではない。スコットランドの警察が6人の選手とフランスラグビー連盟の代表チーム担当の副会長を空港で取り調べたために、離陸時間が遅くなり、オルリー空港への到着は15時45分になったのである。

■夜遅くまで外出していた選手たちに厳しい世論

 スコットランド戦は午後に行われ、その日の夜に両チームのメンバーはホテルタイガーリリーのバーであるルルに出かけた。バーの担当者によると問題なく過ごしていたという。ところが、その日の深夜から翌日にかけて婦女暴行の嫌疑があり、それがフランス代表チームのメンバーに対する取り調べとなったのである。取り調べの結果、フランスチームのメンバーの犯罪は認められなかったが、何人かの選手は遅くまで外出していたことは事実であった。2代前の代表監督であったフィリップ・サンタンドレは「プロの代表選手として試合で敗れた後に夜遅くまで外出するエネルギーが残っていることは理解しがたい」とも発言している。多くのファンも同様の思いであろう。フランスラグビー連盟は代表チームのメンバーとして「不適切な行動」であったとして該当する8選手をイタリア戦のメンバーから外すことを決定したのである。
 本連載では2012年10月に行われたサッカーの21歳以下の欧州選手権の予選プレーオフのノルウェー戦に向けた合宿中に合宿を抜け出してパリのナイトクラブに出かけたことが試合後判明し、5人の選手がその後出場停止となったことを第1673回の連載で紹介している。

■8人の選手が「不適切な行動」でメンバーから外れる

 今回の「不適切な行動」の対象となった選手であるが、アントワン・ベロー、レミ・ラメラ、テディ・トマ、ルイ・ピカモール、ジョナタン・ダンティ、フェリックス・ランベイ、アルツール・イトゥリア、セクー・マカルーの8人である。また、所属クラブのクレルモンからの要請によりアレクサンドル・ラパドリーがこの事件と関係なく外れることになった。

■マチュー・バスタロー、フランソワ・トラン・デュック、ガエル・フィクーが復帰

 1日遅れで13日にイタリア戦に臨む31人のメンバーが発表され、9人が新メンバーとして加わった。基本的に抜けたポジションを埋めていく形になり、先述の抜けたメンバー順に紹介するとフランソワ・トラン・デュック、ガエル・フィクー、レミ・グロッソ、ケリアン・ガルティエ、マチュー・バスタロー、ベルナール・ルルー、ロマン・タオフィフェヌア、マチュー・バビヨ、カミーユ・シャがメンバーに加わった。
 この9人の中で代表経験のないのはフランカーのバビヨだけである。新たに加わったメンバーはトラン・デュック、フィクー、ルルーなど年齢的にも代表キャリアとも上回っているケースが多い。
 そしてなんといってもこのメンバーの中で最も注目を集めたのはバスタローであろう。120キロを超える体重を誇るセンターで、弱冠18歳の時にフランス代表に招集されている。スピードとパワーに勝るプレーで人気選手である。昨年11月の日本戦にも出場していた。しかし、バスタローには致命的な汚点がある。それが2009年のニュージーランドでのバスタロー事件である。試合後にバスタローは暴漢に襲われたと証言し、大きなショックを与えたが、これは虚偽の証言であり、実際には泥酔してホテルの部屋で転倒してけがをしたのである。当時のフランソワ・フィヨン首相が取材する運びとなった。そのような前科のあるバスタローを戻さなくてはならないほどフランスは追い込まれているのである。(この項、終わり)

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