第3210回 ラグビー連盟新会長にフローリアン・グリル氏
平成23年の東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨、台風15号、19号、令和2年7月豪雨などで被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。また、復興活動に従事されている皆様に敬意を表し、被災地域だけではなくすべての日本の皆様に激励の意を表します。
■自国開催のワールドカップで優勝を目指すラグビーフランス代表
今年はラグビーワールドカップがフランスで開催される。フランスはサッカーと同様、2回目の自国開催で優勝を狙っている。フランス代表の近年の充実ぶりについては本連載でも紹介しており、昨年は6か国対抗でグランドスラム(全勝優勝)、その後の夏と秋のテストマッチでも連戦連勝であった。2年連続のグランドスラムを狙った今年は、アイルランドに敗れ、2位に甘んじたが、フランス代表史上で最高の時代を迎えているといっていいであろう。秋のワールドカップでも優勝候補であり、南半球勢の力が落ちている現在、フランスはアイルランド、日本と並んで優勝に一番近い位置にあるといってよいであろう。
■ラグビー連盟のベルナール・ラポルト会長とアルトラッドの疑惑
ただし、グラウンドの外ではフランスラグビー特有のお家騒動が絶えない。これまでも代表チームとクラブチームの選手招集をめぐる確執、代表チームをめぐるクラブの派閥争いなどの問題は絶えなかったが、今回はスケールが違い、現役のラグビー連盟会長のベルナール・ラポルトをめぐる汚職事件である。
ラポルト元会長は1999年から2007年までフランス代表の監督も務め、2003年にはワールドカップで日本と対戦したことから日本の皆様もよくご存じであろう。2007年の自国開催のワールドカップ終了後にはフィリップ・フィヨン首相の下でスポーツ・青年担当大臣に就任、2016年にはフランスラグビー連盟の会長となり、2023年のワールドカップ招致に取り組んだ。疑惑が最初に報じられたのは2020年のことであった。2017年のモンペリエ(サッカーとは異なるクラブ)の処分に関してモンペリエのオーナーであるモヘド・アルトラッド氏からの働きかけを受け、便宜を図った。このシーズンからワールドカップ以外でのフランス代表のユニフォームにはアルトラッドのロゴが入っており、そのスポンサー料が異常に安価であった。
■禁固2年、ラグビーにかかわる役職から2年間追放されたラポルト
2022年12月にこの疑惑事件の判決が下り、ラポルトは収賄ということで執行猶予付きで禁固2年、ラグビーにかかわる役職から2年間追放されるという判決を受けた。ラポルトは競技団体の統括組織であるワールドラグビーの副会長、フランス連盟の会長を辞任したのである。フランスラグビー連盟の会長は選挙によって選ばれるため、総会の行われる6月までは会計担当を務めていたアレクサンドル・マルティネスが暫定会長を務めることになった。
競技団体のトップの逮捕という信じられない事件の渦中で選手たちは2年連続のグランドスラムを目指したのである。
■新会長にはフローリアン・グリル氏
そしてフランスラグビー連盟の第159回総会がリールで行われた。最重要課題の会長選挙は6月12日から14日にかけて行われた。全国の約1800のクラブの会長が票を投じる。投票の結果、フローリアン・グリル氏が58パーセントの得票率で、42パーセントの得票率のパトリック・ビュイッソン氏を破って会長となった。新会長の任期は2024年末まで、1年半の間にはワールドカップが自国で開催され、男女の七人制ラグビーが行われるオリンピックがパリで開催される。
グリル氏は1965年生まれ、奇しくも今回の事件の元となったモンペリエで生まれ、商業系グランゼコールのHEC校を卒業、マーケティングとメディアのコンサルティング会社を起業する。選手としてはPUCのロックとして活躍し、ジュニアの大会で準優勝している。フランスで最も会員の多いラグビークラブであるブローニュ・ビヤンクールの会長を務め、2017年にはイル・ド・フランスのラグビー連盟の会長に就任した。ラポルトとアルトラッドの疑惑の持ち上がった2020年に、前回の会長選挙があり、出馬したものの、得票率49パーセントの僅差で敗れている。
今回は、大差で当選したグリル新会長は、当選後のインタビューで、投票率が95パーセントもあったことに感謝している。そして任期は1年半であるが、長期的な視点で課題に取り組みたく、不祥事で混乱したラグビー界が平静さを取り戻し、一致団結することを願っている。ビッグイベントを迎える中で新会長の手腕に期待したい。(この項、終わり)