第81回 デンマークに惨敗、悪夢再び(4) 疲労が蓄積したビッグクラブの選手たち
■疲労を蓄積させた遠方での親善試合
前回の連載では昨秋から今春にかけての親善試合の意義について述べた。対戦国の多くがワールドカップ予選で敗退した国や結果として敗退した力不足の国であることを述べたが、この親善試合の課題は単純に相手の力量だけではない。昨秋のチリ、豪州との親善試合はフランス代表としては異例の長時間の移動を伴う長期間にわたる遠征を必要とした。それぞれの遠征がいかに大規模なものであったかは本連載の第2回ならびに第14回をご覧いただきたいが、この遠征が選手の疲労を蓄積させたことは紛れもいない事実であり、今回の敗退の一因であろう。
ほとんどの選手は国内リーグだけではなく、欧州チャンピオンズリーグやUEFAカップという欧州カップに出場するようなビッグクラブに所属しており、選手のスケジュールは過密である。そのような過密スケジュールの選手を本国に呼び戻し、さらに遠方へ遠征させることはきわめて難しい。しかし、そのように無意味で無理な遠征を一度ならず二度にわたって行い、選手の疲労を蓄積させたことは反省すべきであろう。
■4人の選手がクラブで50試合以上に出場
さて、選手の疲労を語る際、選手の各クラブでの出場試合数の多さに注目すべきである。アーセナルのパトリック・ビエイラとシルバン・ビルトールは昨季アーセナルの試合で54試合に出場した。これ以外にレアル・マドリッドのクロード・マケレレが53試合、マンチェスター・ユナイテッドのミカエル・シルベストルが50試合に出場している。
■出場試合数が多い国外の強豪クラブに所属する選手
23人の代表選手のうちフランスリーグ所属の選手は5人、彼らの昨年の平均試合出場数は国内リーグ28試合、国内カップ2.8試合、欧州カップは2.8試合で合計33.6試合となる。一方、残る国外リーグ所属の18人について同じく昨年の平均試合出場数は28.2試合、国内カップ4.4試合、欧州カップは9.1試合で合計41.7試合となる。国内リーグ戦の出場数はほぼ同じであり、国内カップ戦になると差が生じ、欧州カップ戦になると大きく差がつく、という数字から、国外の選手がリーグ戦以外の国内外のカップ戦で上位に進出するような強豪クラブに所属していることがよくわかる。
なお、23人の代表選手のうち欧州カップに出場しなかったのはドイツのカイザースラウテンからイングランドのボルトンにシーズン中に移籍したユーリ・ジョルカエフとフランス国内組ではオセールのジブリル・シセとマルセイユのフランク・ルブッフの3人だけである。
■アーセナルでのフランス人選手の出場過多
ところがこの数字を精査してみるとフランス代表の一部の選手がクラブにおいて多くの試合に出場していることがわかる。例えば、ビエイラはプレミアリーグで36試合出場したのに加え、国内のカップ戦に7試合出場、さらに欧州チャンピオンズリーグ、UEFAカップなどの欧州カップに11試合出場している。国内リーグ戦に36試合出場というのは23人の代表選手の中で最多である。もっともプレミアリーグは20チームが所属するため、年間の試合数が38と多いのは事実である。ちなみに各国リーグの試合数はフランス、イタリア、ドイツは34試合、スペインは38試合でイングランドと同数である。
ビエイラが欠場したのはわずか2試合、国内リーグ戦に36試合出場というのは23人の代表選手のうち最多であるばかりではなく、実はアーセナルの選手の中でも最多なのである。一般的にビッグクラブは選手の負荷を少なくするため、有力な選手を多数抱え、選手の出場過多を回避するようにしているが、ビエイラの場合はそうではなかったようだ。
さらに、4年ぶりにリーグとカップの二冠を制覇したアーセナルの選手ごとのリーグ戦出場試合数を分析してみると興味深いことがわかる。リーグ戦出場数のトップは前述のとおりビエイラの36試合、2位は33試合のティエリー・アンリとビルトールとフランス代表選手がトップ3であり、いかに彼らがクラブで酷使されていたかがわかる。
アーセナルの監督はアルセーヌ・ベンゲル、本連載第13回でも紹介したとおり昨年11月の豪州遠征への選手の派遣に異議を申し立てたフランス人監督である。その主張が受け入れられなかったにせよ、自分の所属するクラブの利益を最優先し、母国の代表チームへの配慮が欠如していなかっただろうか。「ベンゲルのチームから代表入りできない」というのは過去の話である。聞くところによるとベンゲルは大会期間中日本のテレビ局に解説者として出演しているそうである。ちなみに日本のグループリーグ突破の立役者となった稲本潤一はアーセナルでビエイラと同じポジションであるが、1試合も出場をすることなく十分な体調で自国の代表チームに合流したという。(続く)