第505回 2006年ワールドカップ展望(3) 新規定の影響が少ないグループG
読者の皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
■2強2弱となったグループG
本連載でも紹介しているとおり、今年6月のワールドカップ本大会ではグループGに入り、スイス、韓国、トーゴと戦うことになった。それぞれの国についてはすでに簡単に紹介しているが、今回は前回と前々回に解説した新たな大会方式、大会規定がフランスにどのような影響を与えるかを紹介しよう。
まず、同勝ち点の場合、得失点差ではなく、直接対決の成績が順位決定の際に優先されるという大会規定になり、ライバル国に対して何が何でも勝ちに行く、という姿勢が見られることになるであろう。ところが、今回のフランスにとってこのルールはほとんど影響がないと思われる。
グループGはフランス、スイスという2強と韓国、トーゴという2弱からなるグループである。フランスにとっての最大のライバルはスイスであり、多くの人々がグループリーグ突破はフランスとスイスであると予想しているであろう。フランスとスイスは予選でも2引き分けと互角の対戦成績である。
■2強2弱のグループリーグの戦い方と大会規定の変更
このような2強2弱のグループの場合、同勝ち点の場合は順位を得失点差で決定するという従来のルールでは、スイス戦は引き分け、残りの2試合は得失点差を考えながら勝利する、というのがワールドカップのセオリーである。しかもフランスとスイスは第1戦で対戦する。フランスの場合、初戦のスイス戦は引き分けて勝ち点1をまず確保し、第2戦の韓国戦では勝ちに行って勝ち点3を上乗せし、勝ち点4で最終戦に臨む。そして最終戦のトーゴ戦はライバルのスイスの第2戦の結果、そして決勝トーナメントで対戦するグループHのスペインやウクライナの第2戦までの成績を考慮して絶対に勝ちに行かなくてはならない場合はレギュラーメンバーを3戦連続して出場させ、引き分けでもよい場合は控えメンバーを起用する。そして試合がキックオフされてからはスイス-韓国戦の試合展開を見ながら、メンバー交代、システム変更を行っていく。全く同じことをスイスも考えているはずである。
ところが大会規定が変更となってもこの戦略は変わらない。ライバル同士の戦いが第1戦である限り、この試合がドローとなれば直接対決の成績は互角となり、順位は得失点差、すなわち2弱チームとの対戦成績で決定されるからである。もしも両者の対戦が第2戦あるいは第3戦であれば、直接対決にかける両者のモチベーションは高まっていたであろう。
■大会規定変更の影響を受ける死のグループ
逆にこの大会規定変更の影響を受けると想像されるのが死のグループとなったグループCであろう。アルゼンチン、オランダ、セルビア・モンテネグロ、コートジボワールと力の接近したチームが戦う場合、今までの大会では第1戦と第2戦で不本意な成績でグループリーグ敗退が決定してしまったチームと第3戦で対戦するチームが有利になるケースがあった。今までの規定では最終戦で対戦するセルビア・モンテネグロとコートジボワールのいずれかがこのご利益を享受していたかもしれない。しかし、今回は消化試合での大勝は決定的なものにはなりえない。
■カナリア軍団もフル回転するグループリーグ
逆に第3戦で本命チームと対戦するチームも今回の大会規定の変更で有利ではなくなった。例えばグループFの日本が当てはまる。グループFはブラジル、日本、クロアチア、豪州という1強3弱である。ブラジルはクロアチア、豪州、日本の順に対戦する。クロアチア、豪州に連勝し、2勝すればグループリーグ突破はほぼ確実であり、従来の大会規定では第3戦の日本戦では控えメンバーを落としてくることが予想された。ところが、新しい大会規定では日本戦に敗れるとブラジルは同勝ち点の場合、日本よりも低い順位となってしまう。例えばブラジルが2勝、日本が1勝1敗で最終戦を迎えた場合、ブラジルにとって従来の大会規定ならば得失点差によっては敗戦も許容できたが、今大会は得失点差にかかわらず引き分け以上を狙うしかなく、ベストメンバーで第3戦に臨むことになるであろう。逆に、これまでグループリーグの最終戦でメンバーを落としてくることの多かったカナリア軍団が3戦ともベストメンバーで戦うことは、世界のサッカーファンへの大きなプレゼントである。
結論としては主催者側の英断による大会規定の変更は大会を盛り上げることになるであろう。しかし、2強が初戦で対戦するグループGは大会規定の変更もほとんど影響がなく、フランスは従来と同じ戦略でスイス戦のドローを狙い、決勝トーナメントを目指すのである。(続く)