第506回 2006年ワールドカップ展望(4) 情報収集力が左右する決勝トーナメント
■盛り上がりに差のあった前回大会の2つの準決勝
前回の本連載ではグループリーグで同勝ち点となった際の順位決定方法の変更がフランスの所属するグループGにはあまり影響がないことを紹介した。フランスならびにスイスには第1戦で引き分け、韓国、トーゴとの戦いで勝ち点を積み上げていくと言う戦い方を進めていくであろう。グループリーグを突破すると16チームからなる決勝トーナメントが待っている。第503回の本連載で紹介したとおり、2002年大会では8つのグループを2つに分け、グループB、D、E、Gから勝ち上がった8チームが韓国で決勝トーナメントを戦い、残りの4グループから勝ちあがった8チームが日本で決勝トーナメントを戦うと言う方式をとった。この方式の場合、同じグループリーグから勝ちあがった2チームが決勝戦はなく、準決勝戦で再戦する可能性があり、実際にブラジルとトルコが準決勝でも対戦した。もう一方の準決勝のドイツ-韓国戦は地元チームが進出したと言う追い風はあったが、日本でも異例のパブリックビューイングが開催され、関心の高さを示した。グループリーグごとに決勝トーナメントを戦う国を固定してしまうことは本連載第21回で紹介したとおり2000年にガーナとナイジェリアで共同開催したアフリカ選手権で選手の移動に対する不満を受けて採用したと言う経緯があるが、交通網の発達した韓国と日本での2つの準決勝の盛り上がりの違いに主催者側も間違いを認めざるを得なかったのであろう。
■情報収集が半分で済んだ前回大会
ファンにとっても盛り上がりとともにこの大会方式は各チームの情報収集戦にも大きな影響を与えた。各チームはもちろんグループリーグで対戦する他の3チームはもちろんのこと、決勝トーナメントで対戦する可能性のあるチームについても事前に情報収集を行う。フランス大会や今回の大会のような場合、全てのチームと準決勝戦までに対戦する可能性がある。ところが、2002年大会の場合、出場チームの半数にあたる16チームとは決勝戦までに対戦する可能性がない。情報収集力に勝るチームがその能力を十分に発揮することができなかった。逆に言うならば、情報収集力に劣るチームがあまり不利にならない大会形式だったのである。
■情報収集力が問われる今回大会
フランスの場合、代表クラスの選手が国外のクラブに移籍すると、専属の情報収集スタッフを現地に派遣し、その選手の状況を逐一本国に報告する体制がとられている。他の欧州諸国も似たような体制がとられているであろう。一方、2002年大会の開催国であった韓国や日本はまだそこまでの体制はとられておらず、参加国全ての情報収集をすることは難しく、限定された数の国の情報収集に専念するのが精一杯であった。このような情報収集戦も2002年大会での韓国と日本の躍進を支えたと言えるであろう。
そして、今大会は従来の方式に戻り、全ての国と準決勝までで対戦する可能性があり、上位進出をもくろむチームにとっては情報収集力がその命運を左右することになってくる。
■強行日程ながら首位突破を狙うフランス
とは言っても決勝トーナメント1回戦については今大会も前大会と同じ条件である。決勝トーナメント1回戦ではグループGの首位とグループHの2位、そしてグループGの2位とグループHの首位が対戦する。グループGのチームにとってグループリーグ最終戦と決勝トーナメント1回戦の間の間隔は首位になれば中2日、2位になれば中3日である。中2日で試合を行うのは3位決定戦を除くと、全体の日程の中でグループGの首位チームが決勝トーナメント1回戦を戦うケースだけであり、避けたいところである。
グループグループHのメンバーはスペイン、ウクライナ、チュニジア、サウジアラビアであり、スペイン、チュニジア、ウクライナが有力な候補である。そしてグループリーグ最終戦の試合開始時刻はグループHは6月23日16時、グループGは同日の21時である。すなわちフランスはスペインやウクライナの試合結果を受けて最終戦を戦うことができるのである。スペインとの対戦を避けたいところであるが、もしスペインがグループHで2位となり、強行日程の中で強豪と戦うとしてもフランスには首位突破にこだわる理由があるのである。(続く)