第567回 最初の関門、スイス戦(1) フランク・リベリー、ワールドカップ本大会で初先発

■1位通過を狙うフランス

 いよいよワールドカップが開幕、グループGのフランスは25番目のチームとして登場、スイスとシュツットガルトで対戦する。本連載第503回から第507回にかけて紹介したとおり、フランスはなんとしてもグループリーグを首位で突破し、決勝トーナメントの1回戦をケルンで戦いたいところである。そのためにもスイス戦は最低でも引き分けの成績を残さなくてはならない。またメンバーの高齢化を考慮すると第1戦のスイス戦、第2戦の韓国戦で勝ち星を重ね、第3戦のトーゴ戦は主力選手を休息させたいと考えるはずである。
 フランスはこのスイス戦に向けてメキシコ、デンマーク、中国と親善試合を行い、中盤以下のメンバーを固定するとともに攻撃陣をテストしてきた。

■スイス戦を前に3つの誤算

 この3つの試合を通じた誤算は3つある。まず、ジブリル・シセが中国戦で負傷し、メンバーから外れてしまったことである。シセはメキシコ戦ではフル出場、デンマーク戦では後半の終盤から交代出場し、10分強プレーした。そしてデンマーク戦の翌日に行われた選手会チームとの練習試合では3得点と大暴れする。この活躍で中国戦の先発メンバーとなったが、負傷により途中退場、さらにワールドカップのメンバーからも外れてしまった。2つ目の誤算はMFとして3試合すべてに先発出場したフローラン・マルーダが体調を崩したことである。
 そして3つ目で最大の誤算はジネディーヌ・ジダンの調子である。エースとして昨年夏にフランス代表に復帰したジダンであるが、シーズンの疲れが取れないのか、この3試合を通じた調子は芳しくない。

■フランク・リベリーを起用、ティエリー・アンリの1トップ

 攻撃の最前線の選手の戦線離脱と攻撃の軸になる選手の不調を受けて、急速に株を上げてきたのがフランク・リベリーである。リベリーはストライカーとしての資質だけではなく、攻撃を組み立てる能力も兼ね備えている。そのリベリーをレイモン・ドメネク監督はこのスイス戦の先発メンバーとして起用することを決断した。
 スイス戦の先発メンバーは守備陣はこれまでの親善試合と同様であり、GKはファビアン・バルテス、DFは右サイドにビリー・サニョル、中央にリリアン・テュラムとウィリアム・ギャラス、左サイドにエリック・アビダルとなっている。中盤、攻撃陣についてはリベリーの投入によってシステムにも手を入れた。これまでの親善試合では中盤に4人と2トップという形であったが、ジダンの不調、マルーダの不在、リベリーの投入という要素を鑑みて、守備的MFにクロード・マケレレ、右サイドにパトリック・ビエイラ、攻撃的MFは中央にジダン、右にシルバン・ビルトール、左にリベリー、そして1トップにティエリー・アンリを配置する布陣となった。

■手の内を知り尽くした相手に秘密兵器

 過去2年間で2004年欧州選手権、親善試合、ワールドカップ予選と4回も顔をあわせているフランスとスイスであり、お互いの手の内をよく知っている。またスイス代表にはフランス国内でプレーしている選手もいる。したがって、相手に知られていない秘密兵器としてリベリーの役割は大きい。リベリーはこれまでに代表チームでは3試合出場経験があるが、先発出場はこのスイス戦が初めてである。
 初先発がワールドカップ本大会というのは1998年フランス大会のダビッド・トレゼゲ以来のことである。しかしリベリーの初先発の重みはトレゼゲの場合とは異なる。トレゼゲの代表デビューはその年の最初の試合、すなわちスタッド・ド・フランスの杮落としのスペイン戦であり、75分にステファン・ギバルッシュに代わって出場、その後も交代出場が続き、ワールドカップの初戦である南アフリカ戦、第2戦のサウジアラビア戦も試合の終盤に登場する。代表8試合目に始めて先発出場を果たすが、それはグループリーグ突破を決めた後のデンマーク戦であった。また歴史を遡ると、その前のワールドカップ本大会が代表初先発というのは本連載第560回で紹介した1986年大会のアルベール・ルスト、そして1978年大会のドミニク・ドロプシーが相当するが、ルストの初先発試合は3位決定戦、ドロプシーの場合は1次リーグ第3戦のハンガリー戦であり、すでに1次リーグでの敗退が決まった後の試合であった。
 このようにリベリーは重責を担って初めてピッチの上で「ラ・マルセイエーズ」を歌うのである。(続く)

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