第577回 無敵艦隊スペインと対戦(3) スペインに逆転勝ち、準々決勝へ

■フランスにとって思い出の地、ハノーバー

 ワールドカップの本大会ならびに予選で初対決となるフランス-スペイン戦の舞台はドイツ北部の都市ハノーバーである。そのハノーバーはフランス代表がドイツ国内で初めて試合を行った都市である。1954年10月16日、スイスで行われたワールドカップで本命ハンガリーを下して世界チャンピオンとなった西ドイツとフランスは親善試合で対戦した。フランスはその2年前にはコロンブに西ドイツを迎えて親善試合を行い、3-1で勝利しており、このハノーバーでの試合はその返礼的な形で行われた。ワールドカップでフランスはぐるプリーグで敗退しており、西ドイツ優勢という予想であったが、フランスはアルジェリア系の選手が活躍し、ハノーバーでも3-1と勝利している。その後、ハノーバーでは1980年11月に親善試合で西ドイツと対戦している。奇しくもこの時も西ドイツはイタリアで行われた欧州選手権で優勝したばかりであった。西ドイツは欧州選手権予選で敗退したフランスを4-1と下し、欧州チャンピオンの面目を保つ。フランス代表にとってはそれ以来のハノーバーでの対戦となる。
 フランス代表にとって26年ぶりのハノーバーとなるが、ハノーバーはフランス代表がドイツ入りした際にチャーター機から降り立った町である。フランス代表はドイツ北部のアエルツェンのシュロスホテルというシャトーホテルに滞在しているが、試合会場のハノーバーまでわずか70キロしか離れておらず、結果的にケルンで試合を行うよりも移動の負担は少なくなった。

■22年前の6月27日、スペインを下して欧州選手権優勝

 相手は今大会では絶好調のスペイン、グループリーグ最終戦は主力を休ませる余裕を見せた。一方のフランスはようやくトーゴを下してグループ2位で薄氷の決勝トーナメント進出、ジネディーヌ・ジダンの復活と攻撃陣の若返りが頼みの綱である。奇しくも試合の行われる6月27日は22年前の欧州選手権フランス大会の決勝の日である。この決勝でフランスはスペインを2-0と下し、優勝をしている。フランス国民の期待も大きく、EMBAの会場には特別にパラボラアンテナとテレビがジュイアンジョザスから持ち込まれた。

■スペインにボールを支配され、先行を許すが動じず。

 そして試合は、フランスにとって今大会のベストゲームとなった。スペインにボールを支配され、28分にPKで先行を許す。今大会初めてフランスはリードを許したが、ジダン率いるイレブンは決してあせることがなかった。この日の布陣は守備陣は大会開幕時のメンバー、GKにファビアン・バルテス、DFは右にビリー・サニョル、中央にリリアン・テュラムとウィリアム・ギャラス、左は出場停止から戻ってきたエリック・アビダル、守備的MFはパトリック・ビエイラとクロード・マケレレ、攻撃的MFは中央にジダン、右にフランク・リベリー、左にフローラン・マルーダ、そしてFWは1トップでティエリー・アンリである。

■ジダン復活、鮮やかな逆転勝利

 41分にビエイラからの縦パスに2列目から飛び出したリベリーがGKを交わして同点ゴール、ベテランと若手のコンビネーションにより同点でハーフタイムを迎える。後半に入ってもボールを支配するのはスペインだがゴールネットを揺らしたのはフランスであった。フランスは少ないチャンスを効果的に攻撃する。試合は延長かと思われた83分、フランスは好位置でFKのチャンスを得る。ジダンからのFKをビエイラがヘッドで合わせて勝ち越し点となる。今度はベテラン同士のコンビネーションによる得点である。ボールを保持しつつも得点にいたらず、フランスに逆転を許した若いスペインは、同点に追いつこうとするが、逆に熟成したフランスの術中にはまる。ロスタイムに入った93分、ジダンが左サイドでフリーになり、強烈なシュートで3点目を決める。フランスの熟成がスペインの若さと勢いに勝った試合で、フランスは準々決勝最後のチケットをつかんだのである。(この項、終わり)

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