第579回 ブラジルを破り準決勝進出(2) 光るジダンとアンリ、ブラジルを圧倒
■過去に1回しかない前回王者と前々回王者の対決
前回王者と前々回王者の対戦となった今回のブラジル-フランス戦であるが、これまでの長いワールドカップの歴史で前回王者と前々回王者の対戦は1度しかない。それは1970年メキシコ大会のブラジル(1962年大会優勝)-イングランド(1966年大会)戦である。この試合はグループリーグでの対戦であり、1966年大会でブラジルがグループリーグで敗退したことからブラジルはシード扱いとならず、ブラジルとイングランドが同じグループCに入った。グループCはこの他にチェコスロバキアとルーマニアが入り、死のグループと称されてもいいようだが、当時は本大会の出場枠は現在の半分の16であり、アジア、アフリカ勢が不在のグループは死のグループとなった。そもそも死のグループという言葉は本大会出場チームが24あるいは32に拡大されてから誕生した言葉かもしれない。さてこのグループCの第1戦でイングランドはルーマニアを、ブラジルはチェコスロバキアを退け、グループリーグ突破をかけた第2戦で両雄が激突した。この試合では前々回王者のブラジルがジャイルジーニョのゴールにより前回王者のイングランドを下している。そしてそのまま駆け上がり、決勝ではイタリアを破り3回目の優勝を果たしている。
さて、今回はブラジルが前回王者と立場を替えて前々回王者のフランスと対戦する。大会前の評価で言えばブラジルの優位は揺るがないが、フランスはスペイン戦でベテランの復活と若手の台頭を見せ、上り調子である。
■スペイン戦と同じ布陣のフランス
また今大会を最後にユニフォームを脱ぐジネディーヌ・ジダンもレアル・マドリッドのチームメイトであるロベルト・カルロス、シシーニョ、ロナウド、ロビーニョの前で最後の試合を行うわけにはいかない。
フランスはそのジダンを攻撃陣の中心にする布陣は変わらず、スペイン戦と同じメンバー、すなわちGKにファビアン・バルテス、DFは右にビリー・サニョル、中央にリリアン・テュラムとウィリアム・ギャラス、左はエリック・アビダル、守備的MFはパトリック・ビエイラとクロード・マケレレ、攻撃的MFは中央にジダン、右にフランク・リベリー、左にフローラン・マルーダ、そしてFWは1トップでティエリー・アンリである。本来左サイドのリベリーは完全に右サイドでの地位を確立した。
■両チームに大量5人のリヨン勢
カナリア軍団はロナウジーニョをトップに据える布陣であるが、このロナウジーニョは前回の2002年大会時にはパリサンジェルマンに所属していた。スターティングメンバーを見渡すとFKの名手ジュニーニョはリヨンの選手、そしてベンチにはフレッド、クリスという2人のリヨンの選手がいる。一方のフランスは左サイドバックのアビダルと左サイドのMFのマルーダがリヨンの選手であり、さらにベンチにはグレゴリー・クーペ、シルバン・ビルトール、シドニー・ゴブーと合計5人のリヨンの選手を抱え、この数字はレアル・マドリッドの5人と同数である。またリヨンから今回のワールドカップには他にポルトガルのティアゴ、スイスのパトリック・ミューラー、スウェーデンのキム・カルストロームが出場しており、いずれも決勝トーナメントに進出している。リヨンがビッグクラブの仲間入りをしているということが言えるであろう。
■初めてのジダンのアシストによるアンリのゴール
試合は勢いに乗るフランスがブラジルを圧倒する。ロナウジーニョが不在の中盤をフランスは支配する。グループリーグで猛威を振るったブラジルの攻撃陣も封印され、フランスはピンチらしいピンチを迎えぬままハーフタイムを迎えた。
しかしフランスもなかなか攻撃の形が作れない。このような事態を打開できるのはやはりベテラン選手である。57分、左サイドからジダンがFKをファーポストめがけて蹴りこむ。ゴール前に殺到する白いユニフォームのフランスとそれを阻止しようとする黄色いユニフォームのブラジル。そしてこの時一番外から猛烈なスピードで走りこんできた選手がいた。背番号12のアンリであり、このスピードには誰もついてくることはできず、右足ボレーでゴールネットを揺らす。実はこれがフランス代表では初めてのジダンのアシストによるアンリのゴールである。
今回もまた前々回王者が前回王者を倒し、フランスはこれでワールドカップ本大会ではブラジルとは初対戦の1958年大会で敗れた以外は1986年大会(PK勝ち)、1998年大会に続き、3連勝となり、5回目の準決勝進出を果たしたのである。(この項、終わり)