第888回 2010年ワールドカップ予選開幕(4) 欧州のビッグクラブの選手が中心のセルビア
■ワールドカップ予選の初戦を落とした場合は予選敗退
第5シードのオーストリアにアウエーとは言え、敗北を喫してしまったフランス、欧州選手権惨敗後も代表監督の座に居座るレイモン・ドメネク監督不支持の声が一気に高まってしまった。最大のライバルと目される第2シードのルーマニアが第4シードのリトアニアにフランス同様予期せぬ敗戦をしたことなど何の慰めにもならない。
ワールドカップ予選初戦の敗戦はフランスのサッカーファンにとっては苦い思い出がある。前々回の本連載でフランスはワールドカップ予選の第1戦で過去20年間勝利から見放されていることを紹介した。1992年に行われた1994年ワールドカップイタリア大会予選ではブルガリアに敗れ、結局本大会出場を逃している。このとき以外にフランスがワールドカップ予選の初戦で敗れたのはフランス、ノルウェー、スウェーデンの間で本大会へのチケットを争った1970年ブラジル大会予選以来のことである。1968年に開幕した予選の初戦でストラスブールでフランスはノルウェーと戦ったが、この試合で敗れてしまう。年が変わりノルウェーのオスロで行われた試合で勝利したが、第3戦はスウェーデンとアウエーでの戦い、このソルナで行われた試合でフランスは0-2と敗れ、最終戦を残してフランスは予選で敗退している。すなわち、これまで予選の初戦で敗れた場合は2回とも本大会を逃している。
■セルビア・モンテネグロを引き継いで2006年ワールドカップに出場
初戦でいきなり崖っぷちに立たされた感のあるフランスであるが、本拠地のスタッド・ド・フランスに戻ってきて第3シードのセルビアを迎えることになる。セルビアは2006年にセルビア・モンテネグロからモンテネグロが独立したことに伴い、発足した。1993年のユーゴスラビアの解体に伴うセルビア・モンテネグロは13年間の歴史の幕を閉じたわけであるが、モンテネグロの独立がワールドカップドイツ大会直前であったことからワールドカップにはセルビア・モンテネグロ代表として出場している。ワールドカップではアルゼンチン、オランダ、コートジボワールという強豪が目白押しのグループで敗退、2008年欧州選手権予選もセルビア・モンテネグロ代表としてエントリーしており、セルビア代表はその後継チームとして、スペインの名将ハビエル・クレメンテを迎えて挑んだが、ポルトガル、ポーランドの後塵を拝し、セルビアの名前を国際舞台に知らしめることはできなかった。
■メンバーのほとんどが欧州カップに出場するセルビア
そして、今回のワールドカップ予選はモンテネグロもエントリーし、予選のグループは違うものの、セルビアはその伝統の力を見せたいところである。セルビアはフランス戦の前に、9月6日にホームでフェロー諸島と対戦し、2-0と順当勝ちしている。セルビアはオーストリアと異なり、多数の選手が欧州のビッグクラブで活躍している強豪国である。フェロー諸島戦とフランス戦に向けて23人の選手を選出したが、そのうち8人がチャンピオンズリーグの本戦に、10人がUEFAカップの本戦に出場する。すなわち8割の選手が欧州カップ組である。また、欧州カップに出場できない5人の所属クラブを見ても、ドイツのドルトムント、イタリアのパルマなど欧州カップ優勝経験のあるチームが集まっている。5チームのうち、唯一欧州カップ優勝経験のないチームがステファン・ボバビッチの所属しているナントというのはフランスのファンならずとも圧倒されてしまうであろう。
■ナントでもフル代表でも中盤の軸となった21歳のステファン・ボバビッチ
ボバビッチという名前は本連載の読者の方はよくご存知であろう。ボバビッチは21歳であり、この夏の北京オリンピックに出場するセルビア代表チームにナントの同僚のフィリップ・ジョルジェビッチとともに選出されながら、1部復帰で開幕ダッシュにかけるナントから派遣を断られた選手である。所属チームのナントはもとより、フル代表においても中盤では不可欠な存在になっている。
セルビアとの一戦はフランスにとっても、ドメネク監督にとっても正念場となったのである。(続く)